2024年11月23日(土)

WEDGE REPORT

2022年11月30日

「西側の兵器工場」となる
韓国の防衛産業

 韓国防衛産業はこれまでに攻略してきたトルコやインド、エジプトなどの新興国、北欧諸国に加えて、昨年は豪州へのK9受注に成功した。そしてさらなる発展のために挑戦を惜しむことなく、韓国にとって悲願である米国への挑戦も進んでいる。

 今年5月に行われた米韓首脳会談の共同声明文には、「米韓間の国防産業分野協力の可能性が増していることを認識しながら、両首脳は国防相互調達協定に関する議論開始を含め、国防部門サプライチェーン、共同開発、製造などの分野でのパートナーシップを強化していくことに合意した」と記された。同会談を受けて、9月に行われた米韓の外務・国防次官級協議では、科学技術・防衛産業協力について話し合われ、次官級の定例対話チャネルが設けられることになった。

 ロシアによるウクライナ侵攻で兵器需要が高まったことも相まって、各国から受注が相次ぐ韓国防衛産業は事実上の西側自由民主主義国家グループの「兵器工場」になりつつあり、そのサプライチェーンは外国へと広がっている。アーミテージ元米国務副長官は19年の米国でのセミナーの中で、米韓の防衛産業能力を発展させ、両国が世界中の友好国に対する兵器のサプライヤーとなることに期待を示した。

 実際、昨年9月15日に米英豪の間で安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」が締結された2日前(13日)には、「米豪韓国防研究・開発・試験・評価分野の3カ国協力体系に関する約定」が締結された。オーカスが原子力潜水艦という高度な機密の塊を扱うのに対して、後者の約定は装甲車などの従来型通常兵器の共同開発が想定されているものと推察する。

 米中間の熾烈な技術開発競争の中で、先端兵器は米国、従来型は韓国などの同盟国が開発を分担して、防衛産業サプライチェーンを構築することが目的だと考えられる。これにより、米国自体が韓国製兵器を使用する可能性が生まれただけでなく、米韓、あるいは米韓豪が共同開発した兵器を西側友好国に売却する将来像を描いている可能性に注目すべきだろう。

 現在、豪州がK9を採用したことを受け、同国南部ビクトリア州では製造元ハンファの工場建設が進んでいるが、敷地は15万平方㍍と広大で、生産設備の他に各試験設備も備えられている。同工場では豪州向けのK9やその派生型だけでなく、他の兵器や、第三国向けの兵器の生産も見据えていると考えられる。

 翻って、わが国の防衛産業の現状は厳しい。住友重機械工業やコマツなど防衛産業界から撤退する企業は年々後を絶たず、自前の装備を調達するためのコストと研究開発のための時間は増すばかりだ。

 自国の技術力向上と経済性を両立させるためには外国への輸出が唯一の手段である。兵器の完成品の輸出は進んでいないが、兵器に活用可能なイメージセンサーや炭素繊維など、部品や素材レベルでは日本製品の競争力は高い。国家安全保障戦略など防衛3文書の改定が年末に迫る中、周辺国から出遅れてしまったわが国に求められることは、そうした自らの強みを生かした防衛産業振興策であり、それが20年、30年先を見据えた国家戦略の一部となることである。

 
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