ロシアが民主化に向かうと北大西洋条約機構(NATO)との関係に大きく影響する。民主化に向かうロシアはNATOとは敵対しないから、米軍は戦略的により重要なアジア太平洋に兵力を再配置出来る。
中露の強硬独裁連合からロシアは脱落する。この結果、中国は世界で唯一の強硬独裁国家と云うことになる。
同じように重要な地殻変動は国連で起きる。国連の安保理事会で、常任理事国であるロシアが民主主義や人権や法の支配等で西側諸国と同じ価値観で行動することになる。その結果安保理の議論の風景は一変する。
ロシアの民主化はインドなどの非同盟諸国にも影響を与える筈だ。国際政治全体の基本構造を動かすことになる。
ロシアは「中国の召使」役を脱却できるか?
ユーラシアの地政学の最大の特徴は中国とロシアと云う二大強硬独裁国でほぼ全域が覆われていることだ。しかしこの両国の関係は平等ではない。
ロシアが中国に従属し、中国の利益伸長に貢献していると云う関係にある。その事をフォーリンアフェアーズ誌は22年8月「ロシアは中国の召使」と題する論考(「China’s New Vassal-How the War in Ukraine Turned Moscow into Beijing’s Junior Partner」)で詳しく解説している。
そして、10月15日付英国エコノミスト誌は「中国が欲する世界」と題する特集号を発行した(「China wants to change, or break, a world order set by others.」)。そこには急速に国力を強大化させている中国が世界的な規模で何を目指しているのかを詳しくかつ明快に論じている。
この特集記事を貫く重要な方向性は「今や中国は世界秩序を権威主義的なイデオロギーで纏めようとしている」と云うものだ。このエコノミスト誌の論稿の副題は「中国は他国が作った秩序を改廃する」となっている。要するに、中国は、西側がこれまで「普遍的価値」と考えてきた民主主義の世界を後退させようとしている。英国エコノミスト誌はそう論じている。
このような中国の目論見からすると、ロシアがこのまま権威主義的な独裁政権であり続ければ中国にとっては非常に好都合だ。「中国が欲する世界」を実現する不可欠のパートナーだ。
その上、化石燃料資源等の供給源としては勿論、更にシベリア資源開発の利権取得の上でも、中央アジア諸国への中国の勢力圏拡大の面でも、強権国家ロシアとの友好と連携は中国の重要な資産となるに違いない。要するにロシアは中国にとって「非常に役に立つ召使」になると云うことだ。自由世界にとってはユーラシア大陸の地政学は「もの悲しい」様相を呈するに至る。
西側の政策協議の必要性
しかし、ロシアが民主化に向かって歩を進めれば、ユーラシアに於いて、そして全地球的な脈絡で地政学上の大変革が起きる。ロシアの民主化問題は非常に重要な歴史的問題なのだ。
民主化は実現するのか? 民衆が蜂起して内乱に至る……。強力な治安部隊に抑え込まれ民主化は挫折するかもしれない。その結果、強硬独裁政権ロシアは世界の強硬独裁化を助けることになる。ここが問題の焦点だ。
ウクライナ戦争自体の帰趨は勿論重要だ。しかし、ロシアの将来は全球的な地政学に直接関係する最重要課題の一つだ。人類社会の将来や文明的発展に関係する。西側諸国は綿密な政策協議をする必要がある。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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