ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席は9月15日、ウズベキスタンのサマルカンドで会談し、プーチン大統領はウクライナ情勢を巡る中国側の疑問や懸念を理解していると述べた。習国家主席はプーチン大統領に対して懸念を示していたのだ。
その4日後、ロシアのニコライ・パトルシェフ連邦安全保障会議書記が中国外交担当トップの楊潔篪共産党政治局員に会っている。戦争している最中に中国が同盟国に「懸念」を表明するのは少しばかりおかしい。どんな懸念だったのか?
あえて推測してみると、中国側にはこの戦争がユーラシア地政学を大きく変えるのではないかと心配している筈だ。原因はロシアの不安定化だ。ロシア軍事作戦が難航し、国際的な経済制裁で苦境にある市民生活が更に脅かされている。ロシア国内の不安材料は増えるばかりだ。
9月21日、プーチン政権は30万人の予備役動員を決めたが、案の定、国内では反発とデモが噴き出ている。兵役を避ける為、ロシア人が大挙して国外に逃げている。その映像は世界に拡散した。
およそ戦争をやれるような国とは思えない現実だ。戦況が悪化しているので、プーチン大統領はもっと大量の兵力を動員したかったに違いない。ギリギリの数値で「30万人の予備役」と決定した筈だが、それでも国民の支持が無いことが明らかになった。
これが中国が懸念を強めている理由だ。今のところロシア政府は強権で自国民を押さえつけているが、本当に大丈夫か? どれ程手荒な弾圧で抑え込むのか? 世界世論の批判との関係は? そして一体、本当にウクライナで勝てるのか? 明敏な中国の政策当局者はロシア危機の帰趨を徹底して研究している筈だ。
プーチン政権は世界秩序を揺るがす戦いをしている
そもそも、ロシアはいささか壮大なビジョンの下でこの戦争を始めたのだ。プーチン政権とその背後にいるロシアのエリート集団は「ソ連終焉後、過去30年にわたる西側の傲慢さへの復讐として世界秩序を揺るがすことを目指している」とカーネギー国際平和基金のタチアナ・スタノバ―ヤ研究員は述べている。
しかし、それにしては戦場で小国ウクライナを相手に後退を余儀なくされている。ロシア国内は混乱し、弾圧は強化され、規模の大きな流血の惨事が起きる可能性は排除できない。要するにロシアは世界秩序を揺るがす戦争をしている割には、苦戦し、ロシアの秩序を揺るがしている。
その上、プーチン政権は強化されるのではなく、むしろ弱体化している。このまま行けばロシア国内で何らかの政治的危機に発展してもおかしくない。悪くすると政権の交代もあり得る。