2024年4月19日(金)

世界の記述

2023年1月9日

若いうちに海外で市場開拓

 大手企業で経理を務めていた山田隆則さん(仮名=39歳)は、9年前に日本を出た。シンガポール、フィリピン、タイで同業の職を得て、今後も帰国する計画はないという。

 「日系企業に勤めていますが、(東南アジアでは)働き方がドライで、残業もありません。意見が通りやすく、トップとの距離も近い感じがします。もし私が日本にいたら、年収はおそらく今の半分だと思います」

 2010年9月から海外就職・転職の支援会社「GJJ」の事業に携わり、現在は同社2代目代表の田村貴志氏は、主に東南アジア諸国を中心に、これまでに1000人の日本人を送り出してきた。その背景と特徴について、このように語っている。

 「現地に日本人駐在員を置くとなるとコストがかかります。とはいえ、日本の人材を必要としている会社が非常に多い。いつか海外を目指したい日本人の大半は、25歳から35歳くらいです。日本にいたら年功序列があり、駐在員の倍率も高い。海外で経験を積むという夢は、なかなか叶わない問題があります」

 海外転職の結果、年収も毎年15%増も普通とのこと。海外での経験を基に、日本の大手企業に再就職する人たちも少なくないという。ただ、うまくいかない人たちも、当然いるようだ。

 「それぞれの事情はありますが、主に二つの傾向が挙げられます。ひとつは、仕事ができても環境が体質に合わず、長続きしない人。もうひとつは、完璧主義の人はストレスを抱えやすいため、難しいということです」

 中には、高収入目当てで海外就職を目指したのではない人もいる。宮川優毅さん(33歳)は、日本の地方銀行に就職したものの、面白みに欠けたことと、業界の先行きに不安を感じ、1年半で退職した。

 24歳にしてベトナムの日系企業に就職。エンジニアリングの営業部門を担当したが、給料は日本より低かったという。しかし、彼にとっての海外キャリアは、別の重要な意味を持っていた。

 「日本にいるとルールが決まっていて、小さいパイの取り合い。ベトナムでは、案件が山ほどある中で、価格交渉などの決定権もあって、自由にやらせてもらえました。若いうちに海外に出て、市場の開拓をし、将来のキャリアにつなげることができました」

 給与面については、初任で1500ドル(約19万7000円)だった。彼が渡航した2013年時の為替レートでは、約14万6000円でしかなく、「出稼ぎ」という目的でなかったことが窺える。

 宮川さんは、それ以上の経験を得たと感じている。5年間の海外就労を終え、現在は、ベトナム人女性と結婚し、日本に復帰。現地で学んだ経験を生かし、ベトナムに進出する法人や省庁に、法律面でのサポートを行うなど、今の仕事に満足している。そう思えるのも、目先の利益だけで海外に行ったわけではないからからだ。

 「外国に出られるなら、どんどん出たほうがいいと思います。だからと言って、飲食店で働いて、大金を稼ぐのもいいけれど、ずっと皿洗いを続けることもどうかと思います。最終的な自分のキャリアについて、しっかり考えて海外で働くことが大事だと思うのです」


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