2024年11月24日(日)

From LA

2023年1月12日

「ファクトリー・アグリカルチャー」

 一方で農業を科学的にアプローチする、という方法も今急速に進んでいる。代表的なものは「ファクトリー・アグリカルチャー」と呼ばれるものだ。バーティカル・アグリカルチャーとも呼ばれるように、工場内で土を一切使わず、棚上に縦に伸びる作物の育て方だ。

 代表的な企業にオハイオ州の「80エーカーズ」(https://www.80acresfarms.com/?cn-reloaded=1)があるが、ここに投資しているのが独シーメンスだ。CESでシーメンス社長兼CEO、バーバラ・ハンプトン氏は「シーメンスと農業、と言うと、ミスマッチと思われるかもしれないが、わが社の持つ電動化、デジタル化などの技術をサステイナブルなフードチェーンに投資することは重要な使命だと考える」と語った。

 80エーカーズのような企業の利点は、都市郊外の工業地などに建設可能で、農薬などを一切使わない水耕栽培を行うことで、新鮮な野菜などを都市に供給できるという点だ。物流が最小限で済むため、運搬のための排気ガスも最小限となり、収穫から販売までの期間が極めて短いため、新鮮な製品を消費者に届けることができる。

 こうした食品製造のスタートアップへの投資を主に行う投資家のデビッド・フリードバーグ氏は、投資の方向性として次の4つを挙げる。

  1. 農業のデジタル化。センサー、自動運転などを用いて農業の現代化を図る
  2. 遺伝子工学を用いた植物の生育。植物と土との関係性を生物学的に調査し、生育に最適な細菌などの研究を行う。
  3. 細胞工学により、食物の成分を分析。人工的にそれを作り出す。この技術を使えば、例えばある食物を「プリントアウト」することも可能となる。
  4. 物流システムの改善、作業の効率化。

 特にバイオテクノロジーが今後の食料問題への対応で非常に重要になるのは、人口が今後90億、100億と増加していった場合、既存の農業や牧畜などによる食料生産は人口増に追いつかなくなる、という試算があるためだ。

 フリードバーグ氏によると「例えばビール、コーヒーなどの味を決めるのは1%程度の成分で、残りは水となる。この成分を人工的に作り出せれば、作物に頼らない飲料製品の製造が可能になる」と語る。

 現在も人工肉などは存在するが、ブレークスルーとなるのは「実際の肉よりも加工肉のほうが安くなる」ことだという。確かに植物由来の「肉」はスーパーなどで販売されているものの、価格は実際の肉よりも高めに設定されていることが多い。これではエコやベジタリアンを標榜する人には売れるが、食糧難への決め手にはならない。

 安価で安定的な食料供給は、日本のような食料自給率の低い国にとっても喫緊の課題と言える。80エーカーズは自社のビジネスモデルを輸出する形で今後世界に進出していく、という。日本も農業のあり方、農作物の物流について今こそ考えるべきではないだろうか。

 ところで食糧難への対応として、日本やアジアの一部地域では昆虫食が注目されている。昆虫から良質のタンパク質を摂る、という考え方だが、フリードバーグ氏にこうした動きは米国ではないのか、という質問をしたところ、「欧米では昆虫食に対する抵抗感があり、具体的な動きはない。ただし食糧危機が本格化すれば、そうした考え方も広がる可能性はある」という返答だった。日本のように昔から昆虫を食べ物として扱う、という文化がない国では浸透は難しいのかもしれない。

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