【コラム2】メタバースの現在地、今後どう具現化していくのか?
日本総合研究所先端技術ラボの金子雄介エキスパートによれば「『メタバース』といっても、コンシューマー用途とビジネス用途で分けて考える必要がある。ビジネス用途でいえば『デジタルツイン』。現実と双子のバーチャル空間をつくり、シミュレーションなどに使われている。例えば、エヌビディアとシーメンスが協力してデジタルツインの工場をつくっている事例がある。
それに対して、コンシューマー用途のメタバースが目指す最終形態は、常時バーチャル空間内で過ごすことといわれている。ただし、3Dバーチャル空間の特徴を生かしたコンテンツも不足しているし、ヘッドセット機器の改良も必要になる」。
同じく間瀬英之シニア・アナリストは「このところ注目しているのは、マイクロソフトのARゴーグル『ホロレンズ』を米国陸軍が採用していることだ。インターネット技術もそうだったように軍事技術の民生利用がイノベーションにつながることは少なくない。ただ、米軍での利用においても、3時間程度の連続使用で吐き気や頭痛、眼精疲労などの症状を引き起こすという事例も報告されているそうだ」。
今後の展開についてはこんな予測をする。「10代がゲームでメタバース的な世界を体験しているように、若い世代ほど、バーチャル世界への親和性が高い。今後、世代によってプラットフォームが違うということも起きてくるかもしれない」(金子さん)。
「コンシューマー用途のメタバースは、まだ入り口段階で、収益を上げるというモデルは出てきていない。ただ、だからといって『やはり駄目だ』ではなく、どんなサービスができるのか、どんなビジネスモデルがあるのかを『考える時期』にあり、目先ではなく、30年に向けて『こう変わっていく』というビジョンが必要だ」(間瀬さん)
イノベーション─―。全36頁に及ぶ2022年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の本文中で、22回も用いられたのがこの言葉だ。
「新しくする」という意味のラテン語「innovare」が語源であり、提唱者である経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが「馬車を何台つないでも汽車にはならない」という名言を残したことからも、新しいものを生み出すことや、既存のものをより良いものにすることだといえる。
「革新」や「新機軸」と訳されるイノベーションを創出するには、前例踏襲や固定観念に捉われない姿勢が重要だ。時には慣例からの逸脱や成功確率が低いことに挑戦する勇気も必要だろう。平等主義や横並び意識の強い日本社会ではしばしば、そんな人材を“尖った人”と表現する。この言葉には、均一的で協調性がある人材を礼賛すると同時に、それに当てはまらない人材を揶揄する響きが感じられるが、果たしてそうなのか。
“尖る”という表現を、「得意」分野を持つことと、「特異」な発想ができることという“トクイ”に換言すれば、そうした人材を適材適所に配置し、トクイを生かすことこそが、イノベーションを生む原動力であり、今の日本に求められていることではないか。
編集部は今回、得意なことや特異、あるいはユニークな発想を突き詰め努力を重ねた人たちを取材した。また、イノベーションの創出に向けて新たな挑戦を始めた「企業」の取り組みや技術を熟知する「経営者」の立場から見た日本企業と人材育成の課題、打開策にも焦点を当てた。さらに、歴史から日本企業が学ぶべきことや組織の中からいかにして活躍できる人材を発掘するか、日本の教育や産官学連携に必要なことなどについて、揺るぎない信念を持つ「研究者」たちに大いに語ってもらった。
多くの日本人や日本企業が望む「安定」と「成功」。だが、これらは挑戦し、「不安定」や「失敗」を繰り返すからこそ得られる果実である。次頁からでイノベーションを生み出すためのヒントを提示していきたい。