なぜ自動車会社がメタバース?
昨年5月にバーチャルギャラリー「ニッサン クロッシング」で軽電気自動車(EV)「日産サクラ」の新車発表会を行った日産自動車。企画した同社の日本事業広報渉外部の鵜飼春菜さんは「クルマが身近にない人たちに向けて、クルマのある生活、ドライブの楽しさなどを体験してもらいたかった」と話す。そのためにこだわったのが没入感だ。パソコン画面などでも見られるほうが容易により多くの人が利用できるが、体験をよりリアルなものにするために、メタが販売するVRヘッドセット「メタクエスト2」を使用することを前提とした。
このVRヘッドセットには専用コントローラーが付いており、これを使用してメタバース空間「ドライビングアイランド」内で「日産サクラ」を運転する。バーチャル内なので、運転免許がなくても運転でき、友人同士で試乗することも可能だ。
「フェアレディZ」を乗りたいというユーザーは実車に乗って体感してもらうしかないが、「クルマとのファーストコンタクト」(鵜飼さん)という人々に向けた企画だ。自動車メーカーにとって、実物のクルマを買ってもらうことがゴールではあるが、都心居住者や若者を中心に「クルマ離れ」が進む中で、まずは知ってもらうことが大事になっているということだ。
メタバース世界の未来はどうなるのか?
バーチャル技術を使ったサービスが徐々に芽生えつつあるが、「常時メタバース空間で活動する」といった世界が本当にくるのだろうか? 日本総合研究所先端技術ラボの金子雄介エキスパートは「その世界の実現には数年かかるだろう 。ヘッドセットの改良、通信環境、そしてコンテンツも必要になってくる」と指摘する。同じく間瀬英之シニア・アナリストは「どんなことができるか、考える時期」だと話す。映画『レディ・プレイヤー1』のような世界が訪れるには時間がかかるが、利用者を増やすためのコンテンツ作りに知恵を絞る時ということだ。
例えば、国土交通省による、3D都市モデルプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」。3D都市モデルをつくることで都市計画や、ドローンによる配送のシミュレーションなども行うことができる。さらに、茨城県鉾田市では観光振興に向けて、3D都市モデルを使った観光用アプリケーションづくりを進めている。プラトーのデータは全てオープン化され、誰でも複製、商業利用することが可能だ。プラトーを担当する都市政策課の内山裕弥課長補佐は「情報発信、イベントを通じてプラトーに触れるきっかけづくりを進めている」と話す。
これまで見てきた通り、バーチャル技術の活用はアイデア次第で、人の移動を促し、体験も豊かにすることができる。社会に有益なツールとして実装され、そこで新たなビジネスを生む可能性を秘めているのだ。