2024年7月16日(火)

バイデンのアメリカ

2023年1月19日

 「新年早々の下院議長選出をめぐる共和党議員同士の怒鳴りあいや非難の応酬は、メディア報道、ニュース解説のかっこうの話題となった。それ自体、TV視聴者にとっても驚くべきことだったが、対照的に規律のとれた民主党議員たちの行動も大きな関心事となった。というのは、民主党はこれまで、保守派、中道派、急進左派議員たちが勝手気ままな言動に走り、統率の欠如が深刻な問題とされてきたからだ。しかし今回は、15回の投票を通じ、一糸乱れず全員がジェフリーズ議員に票を投じた。これに対し、共和党側は、少なからぬ議員たちが〝体制派〟側に平然と悪態をつき、小突きあい、醜態をさらした。マッカーシー議員は、深夜にまで及んだ15回目の投票でようやく、念願の議長ポストを手に入れたが、真の勝利者は明らかに民主党だった」(NBC NEWS)

超右翼議員とした取引

 しかも、共和党は、大混乱の末、マッカーシー下院議長選出にこぎつけたものの、これで難局を乗り切ったわけではけっしてない。むしろ、問題は今後の議会運営であり、前途に数々の不安要因を抱えているからだ。

 第一は、議長選出投票で最後まで抵抗した超右翼の「Freedom Caucus」と呼ばれる議員グループの不気味な存在だ。

 現在、222人で構成される共和党下院議員団中、55人を占め、思想的には「米国第一主主義」「白人優先主義」を唱導してきたトランプ前大統領の立場に近いが、議長選出投票の際には、トランプ氏の支持呼びかけにも応じず、土壇場までマッカーシー議員に抵抗した。そして最終的には取引で、「議員1人の発議による議長解任動議提出」を可能とする党議改正を議長として認めさせた。

 このため、マッカーシー議長は今後、法案審議などを通じ、過半数支持獲得のため絶えず同グループの顔色をうかがわざるを得なくなり、強いリーダーシップが発揮できなくなる恐れが出てきた。また、取引の一環として、下院各委員会の中でも中核的存在となっている

 規則委員会、予算委員会などにも同グループメンバー議員が名を連ねることになったため、重要法案審議に支障をきたしかねない。

 マッカーシー支持派の一人、デイビッド・バラダオ議員も「今後、極右派に強大なテコ材料をあたえることを多くの穏健派議員たちが心配している」とコメントしている。

 第二に、2024年大統領選挙・議会選挙への影響だ。

 「Freedom Caucus」はさらなる取引で、各州予備選に対する党中央の締め付けを緩めることを了承させた。このため、地方レベルで上下両院議員候補や大統領候補が乱立し、民主党候補相手に不利な戦いを強いられることも懸念される。

 第三に、造反グループに譲歩し続けた場合、本来、大統領継承順位第2位の絶大な権力を誇るはずの下院議長の立場を弱体化させ、その結果として、議会運営は民主党が多数を占める上院に主導権が移ることも考えられる。バイデン政権としても、議会対策上、願ってもないシナリオだ。

 こうした悲観的見方について、マッカーシー氏は議長選出が確定した直後、報道陣の問いかけに対し「少数派に妥協したからといって、議長職にダメージを与えたとか、下院の統治能力に悪影響を与えることなどはあり得ない。議員1人による議長解任動議を恐れたりしていたら、職務を果たせない」と強気の姿勢を見せた。

 一方、下院議長選出をめぐる共和党の混乱劇は当初、バイデン政権関係者たちの間では、好感材料として受けとめられていた。


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