今回の安保政策転換について、朝日新聞は米国知日派のコメントを紹介した。このなかで、外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員は、「米政府は日本の戦略的思考と外交の方向性に満足している」(1月15日、「考論」)と岸田内閣の決断を高く評価した。
政権に批判的で、岸田首相個人への攻撃とも思える紙面作りを展開している朝日新聞にして、好意的な分析記事を掲載せざるを得なかったことは、批判勢力の勢いを失わせるに十分だ。
首相に失策があったとすれば、結論を急ぐあまり、必要経費を積み上げた場合に大幅増額にならざるをえないという説明ではなく、最初から国内総生産(GDP)比2%を提示して「数字ありき」という印象を与えてしまったことだろう。
日米首脳会談決まり、キーウ訪問が困難に
今回の外遊を通じ、安全保障政策の転換は、欧州各国からも評価されたようだ。首相自身、帰国直前にワシントンで行った記者会見で、G7議長国、国連安全保障理事会の非常任理事国の任期が始まったことを念頭に、「国際社会を主導していく責任の重さと日本への期待を感じた」と歴訪を振り返った。
そうならば慶賀にたえないというべきだろうが、それだけに、キーウ訪問を今回見送らざるを得なかったのは残念というほかはない。国際社会を主導していくというなら、キーウを電撃訪問して、存在感を各国に示すべきではなかったか。
首相はもともと昨年6月、スペインのマドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した際、キーウ行きを検討したが、日程の都合で見送られた。今回の外遊前、首相は同じ時期に開かれるダボスの世界経済フォーラムへの出席を予定、それにあわせてウクライナに足を伸ばすことを検討したようだ。
しかし、その日程と前後して日米首脳会談がセットされたことでダボス行きがをとりやめとなり、年末からロシアによるキーウへの攻撃が激化したことなどもあって、立ち寄りも断念されたと伝えられる。
5月19日からの広島G7首脳会議の前に、首相がゼレンスキー大統領を訪ねる機会はあるのか。
1月23日に通常国会が召集され、予算審議が始まる。外務省関係者らは、情勢が厳しくなったことは認めている。しかし、チャンスが潰えてしまったわけではない。
予算委員会の審議が一段落するのを待って、週末に〝弾丸訪問〟することも可能だし、4月から5月の大型連休を利用することもありうる。首相は今回訪問できなかったドイツのショルツ首相とも「できるだけ早く意見交換の機会をもちたい」(帰国前のワシントンでの記者会見)と述べており、この時に同時に訪問することも選択肢の一つだ。
ただ、週末訪問の場合は、制裁への報復として、ロシアが航空機の上空通過を禁止していることから、時間のかかる北極回りか南回りの航路をとらざるを得ず、ごく短期間での往復には障害となる。5月の連休をあてるにしても、G7首脳会議に間に合わせるため、訪問それ自体が目的になってしまったという印象をもたらすのは避けられない。