1950、60年代に自民党幹事長、副総裁などを歴任した川島正次郎の言葉に「政治は一寸先は闇」がある。老政客の格言がこれほど実感をもって受け取られたこともあるまい。
順風満帆だった岸田文雄内閣は2022年、安倍晋三元首相の殺害、統一教会の暗部が抉り出されたことで、支持率があれよあれよという間に低下、一気に窮地に追い込まれた。
最も不本意、呆然としているのは岸田首相その人だろうが、2023年の永田町、起死回生をはかるため、首相が〝令和の高橋是清〟となるべき大物を担ぎ出すのではないかとの憶測もなされている。
見果てぬ初夢に終わるか、正夢になるのか。
熱い視線浴びるのは菅、野田元首相
ささやかれているのは、菅義偉前首相を再び官房長官に据えて政権の重石とし、立憲民主党の野田佳彦元首相をしかるべき処遇をして取り込み、立民の分断を図るという目論見だ。
菅氏は周知のように、安倍晋三氏の後を担いながら、わずか1年で退陣を余儀なくされたが、第2次安倍内閣7年8カ月の全期間、官房長官として政権を支え続けた。鋭い政治的嗅覚と非凡な調整能力で安倍長期政権の原動力といわれた。
野田氏は、在任中の武器輸出3原則の一部緩和などを断行、自民党の考えに比較的近く、今回の防衛費増額にも理解があるといわれる。国会で安倍追悼演説に立った際は、「勝ちっぱなしはないでしょう、安倍さん」と呼びかけ、泣かせる名調子で国民の心をつかんだ。
首相経験者がヒラ大臣として入閣するのは憲政史上、これまでもいくつか例がある。
近代日本きっての財政家、高橋是清は大正期に首相をつとめた後、昭和にかけて数回にわたり大蔵大臣として入閣した。最近でも、安倍内閣の麻生太郎副総理兼財務相、小渕恵三内閣の宮沢喜一財務相の前例がある。荒唐無稽な奇策というわけではない。
ご本人たち受けないだろうという見方は多く、実現の可能性は低いと見るべきだが、現実味にかけるアイデアまで取りざたされるほどの状況ということだろう。