2024年4月26日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年1月22日

サービス開発にもつながりと専門性を生かす

Sansanのエントランス

 こうしたサービスの開発は、社員が有する「専門性」を最大限発揮したことによる賜物だ。Sansanの研究開発部には、社会学、経営学、経済学、工学など、さまざまな分野で修士号・博士号を取得した人材を集め、彼らの知見をフル活用している。例えば、「同僚ナレッジサーチ」のアイデアは「誰が何に詳しいのか」を正しく認識できている人は、ビジネスでも高いパフォーマンスを発揮できるという経営学の研究に基づいているという。

 だが、専門性を有する人材だけで生まれるサービスは少ないのが実情だ。自身も工学の博士号を持つ西場正浩研究開発部長は「専門性を持つ人材は、アイデアを膨らませ、それが具現化できるか否かを現実的に判断できる能力に長けている。研究の過程では海外の先行事例や他社事例などを参照するため、どのような技術やデータが自社のサービスに組み込めそうかの判断ができる。一方で、彼らも決して万能ではない。例えば、ビジネスをする上で有効なデータとは何か、どのような情報やサービスが欲しいのかということは、お客さまと直に接している営業部門の方が詳しい。

 だからこそ、研究開発部のメンバーは、部外へのヒアリングや、雑談にも聞こえるような日頃の何気ないコミュニケーションの機会を大切にしている。営業部門はもちろん、その他のコーポレート部門も含め『このデータ、何かに活用できない?』『こんな機能があると喜ばれそう!』とざっくばらんに意見交換する時間を意図的につくっている。他部署の人とのつながりからヒントを得て行う研究の方が、実現性は高い」と明かす。

 こうした「出会いのデータ」を活用することで、どのような未来が訪れるのだろうか。「個人情報保護などの観点で、全ての情報を結び付けることはできない。それでも、これまで属人的にしか把握、共有できていなかったつながりが可視化できたからこそ、『会ってみよう』という新しい出会いのきっかけになったり、それまで知らなかった第三者とのつながりが見えることでお互いの信頼感が深まったりもする。こうした出会いから新たな発想やビジネスが生まれ、それが具現化されたものが、今の日本に求められている『イノベーション』の一つなのではないか」(西場部長)。

 もはや国内の市場規模縮小は避けられない。だからといって悲観するのではなく、足元に眠るリソースの中からいかに新しいビジネスの芽を生み出すかが問われる。縦割りの産業構造や取引関係に横串を刺し、「出会いのデータ」からイノベーションを導く─。Sansanのサービスが明るい兆しをもたらすかもしれない。

 『Wedge』2023年2月号では、「日本社会にあえて問う 「とんがってる」って悪いこと? 日本流でイノベーションを創出しよう」を特集しております。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
 イノベーション─―。全36頁に及ぶ2022年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の本文中で、22回も用いられたのがこの言葉だ。
 「新しくする」という意味のラテン語「innovare」が語源であり、提唱者である経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが「馬車を何台つないでも汽車にはならない」という名言を残したことからも、新しいものを生み出すことや、既存のものをより良いものにすることだといえる。
 「革新」や「新機軸」と訳されるイノベーションを創出するには、前例踏襲や固定観念に捉われない姿勢が重要だ。時には慣例からの逸脱や成功確率が低いことに挑戦する勇気も必要だろう。平等主義や横並び意識の強い日本社会ではしばしば、そんな人材を“尖った人”と表現する。この言葉には、均一的で協調性がある人材を礼賛すると同時に、それに当てはまらない人材を揶揄する響きが感じられるが、果たしてそうなのか。
 “尖る”という表現を、「得意」分野を持つことと、「特異」な発想ができることという“トクイ”に換言すれば、そうした人材を適材適所に配置し、トクイを生かすことこそが、イノベーションを生む原動力であり、今の日本に求められていることではないか。
 編集部は今回、得意なことや特異、あるいはユニークな発想を突き詰め努力を重ねた人たちを取材した。また、イノベーションの創出に向けて新たな挑戦を始めた「企業」の取り組みや技術を熟知する「経営者」の立場から見た日本企業と人材育成の課題、打開策にも焦点を当てた。さらに、歴史から日本企業が学ぶべきことや組織の中からいかにして活躍できる人材を発掘するか、日本の教育や産官学連携に必要なことなどについて、揺るぎない信念を持つ「研究者」たちに大いに語ってもらった。
 多くの日本人や日本企業が望む「安定」と「成功」。だが、これらは挑戦し、「不安定」や「失敗」を繰り返すからこそ得られる果実である。“日本流”でイノベーションを生み出すためのヒントを提示していきたい。

   
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