「Wedge」2022年6月号に掲載されている特集「現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう」記事の内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(Wedge Online Premium)にてご購入ください。
「本気でイノベーションを起こしたいのであれば、まずわれわれ自身が変わるところから始めるべきではないか」。そう言われたのは15年前くらいだろうか。私がまだ経済産業省の官僚だったとき、日本発で世界に負けないイノベーションを起こすにはどうしたらよいかと議論していた際にある人が発した言葉だった。
この発言が契機となり、私は数年後に経産省を退官して電気自動車(EV)のベンチャー企業を起こすことになる。
起業してから7年半が経過し、役所だけでなくベンチャー、大企業、中小企業、大学などのさまざまな世界に身を置いてみると、日本社会のイノベーション力が低下したのは「安定志向」こそに原因があるように思う。
安定志向が蔓延すると、社会や企業における変革の力は大きく失われる。日本経済の屋台骨を長年にわたって担ってきた電機産業はパソコン、携帯電話、テレビ、オーディオ、太陽電池、半導体と数多くの分野で世界市場のシェアを失った。
代わりに台頭したのがGAFA(GAMA)に代表される米西海岸発のインターネット企業、韓国サムソン、台湾TSMC、中国華為技術(ファーウェイ)などに代表されるアジアのデジタル系メーカーだ。彼らの勝因は複数あるが、デジタル化とサプライチェーンのグローバル化という大変革に対して攻めの経営姿勢で臨んできたことが一番大きいのではないかと思う。
安定志向は働き手自身の能力を制限することにもなる。