「Wedge」2022年6月号に掲載されている特集「現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう」記事の内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(Wedge Online Premium)にてご購入ください。
大半の読者にとって、山下俊彦って誰だろう。45年前の1977年、下から2番目のヒラ取締役からいきなり松下電器(現在のパナソニック)の社長に就任した。「経営の神さま」、松下幸之助による大抜擢だった。山下は工業高校卒で松下家とは縁もゆかりもない。世間は「22段跳び」と大騒ぎしたが、あれから半世紀近い時間が流れている。今、なぜ、山下俊彦なのか。山下の経営哲学が、現在の衰弱し切った日本経済と企業社会を立て直す「原点」を指し示していると思えるからだ。
日本が今の体たらくになった最初の躓きの石は、80年代後半のバブルだった。このことに異を唱える人はいないだろう。山下はバブル直前の86年に社長を退任している。退任の辞で言った。「ほろびゆくものの最大の原因はおごりです」。山下には見えていたのである。
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持て囃され、日本の地価で米国が2つ買えたバブル。経営者たちの頭のネジが弾け飛んでしまった。おごり高ぶり、慢心し、自己満足し、内向きになる。世界市場とライバルをまともに見ようとしなくなった。例えば半導体。
日本は80年代後半にDRAMメモリで世界市場の8割を握り、86年に半導体生産額が米国を上回る。まさにその年、日本は日米半導体協定を結び、通産省(現・経済産業省)が音頭をとって「官製カルテル」を結成した。設備投資は抑制し、半導体価格を引き上げ、ラクして儲けよう。オレたちが市場を牛耳っている、他の国も付いてくるだろう、と。ところがどっこい。