2023年1月30日(月)

#財政危機と闘います

2023年1月24日

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島澤 諭 (しまさわ・まなぶ)

関東学院大学経済学部教授

富山県生まれ。1994年東京大学経済学部卒業 同年4月経済企画庁入庁。調査局内国調査第一課、総合計画局計量班、調査局国際経済第一課等を経て2001年内閣府退官。02年秋田経済法科大学経済学部専任講師、04年10月秋田大学教育文化学部准教授。15年4月から中部圏社会経済研究所研究部長を経て、22年4月より現職。

 やはり外国人の受け入れは、少子化対策としても、人口対策としても即効性があることが確認できる。やや刺激的な物言いになることをお許しいただければ、外国人の受け入れに反対する人たちは、例えば東京都の少子化対策によって、外国人が居住地を選択する際に東京都を選択し、少子化対策の便益を受け取ることはどのように感じるのだろうか。

 こうした外国人移民の導入という議論は政治的にも国民的にも皆無である。そもそも、1.57ショックの1990年当時のバブル時代であれば外国人も喜んで日本にやってきただろうが、アジアで見ても賃金水準が低下している日本にやってくる外国人はどれだけいるだろうか。

子を持つことへの優遇になってはいけない

 結局、国や東京都が行おうとしている少子化対策は、即効性のある外国人への門戸開放ではなく、現在のところ、これまでの延長線上にある対策の規模を大きくしたものに過ぎない。少子化に歯止めをかけた実績も、即効性もないのだから、国難としての少子化に対応しているフリをしているだけ、何かやってる感を演出しているだけに過ぎない。

 さらに筆者が問題だと考えているのは、現在の少子化対策は高い確率で失敗に終わるとみているが、失敗の責任をある特定のグループが負わされるのではないかという点である。つまり、これだけ国費をつぎ込んで「異次元」の、「分厚い」少子化対策を実行したにも関わらず少子化に歯止めがかからないのは、若者が子を持とうとしないからだ、特に、若い女性がわがままだからだという批判が出るのではないかと危惧している。子を産めない人や子を持たない選択をした人たちへの社会的なバッシングも起きるだろう。

 繰り返しになるが、日本の少子化に即応しようと思えば、移民の導入は不可避である。しかし、現行の外国人移民に頼らない少子化対策路線を取るのであれば、日本人女性に子を産んでもらうほか解決方法がない。

 視点を変えると、政府が政策によって、出生を強制する、あるいは社会的に出生を奨励する風潮を作ることは、女性の人権を侵害する可能性を孕んでいることに留意が必要だ。かつて時の厚生労働大臣が「15から50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっている」、「機械というのはなんだけど、あとは一人頭で頑張ってもらうしかないと思う」と発言し批判を浴びたことがあったが、実はこの発言は国による少子化対策は女性の人権侵害という側面を併せ持っているという本質をついている。

 国難を救うための少子化対策と称して、子を生むか生まないか、結婚するかしないかで、政府によって優遇されたり、冷遇されたりする世の中では、たとえ、移民を受け入れて一時的に少子化に歯止めがかかったとしても、また少子化が進行してしまうだろう。

 いずれにしても、筆者を含めた大多数の国民は国の命運を外国人に頼るのは心許ないと考えているに違いない。だから、出生対策に頼ろうとするのも理解できる。

 しかし、だからこそ、失敗続きの「日本人を増やす」という少子化対策への逃げに走るのではなく、子を持つ持たない、結婚するしないという意思決定にゆがみを与えない、そうした意思決定に中立的な雇用環境や税制、社会保障制度を構築する方が、国民の幸福も増すだろうし、国家の持続可能性も増すはずだ。

 岸田首相の「異次元の少子化対策」が、戦後の高度成長期という日本史上イレギュラーな時期に形成された右肩上がりの人口・経済を前提とする社会・経済の諸制度を、人口構造から中立的な制度へと変更する、筆者は少子化対策はすでに手遅れではないかと危惧しているが、今回が正真正銘のラストチャンスだ。岸田首相の「異次元の少子化対策」がこうした本当の意味での「異次元」であることを期待したい。

 
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