中国産冷凍餃子事件
07年末、中国産冷凍餃子による重篤な食中毒事件が起こった。餃子からは通常の残留濃度とはけた違いに高濃度の農薬が検出され、中国の工場で犯人が故意に注入したことが判明した。メディアは発生確率が低い重大犯罪事件と日常的に起こり得る食品安全手順の誤りを混同して、すべての中国産食品が危険であるような報道を続け、中国産食品の検査率が大幅に引き上げられた。
国産食品も輸入食品も1%以下の軽微な規制違反があるのだが、中国産食品だけ検査件数を増やせば見つかる違反数は比例して多くなる。メディアは中国産食品の違反率が他国と変わらないことは無視して、違反件数が多いことだけを取り上げて不安を煽った。
その結果、中国産冷凍食品の輸入量は事件後に半減し、現在も減ったままである 。安全であるにもかかわらず風評が改善しない理由は、BSE問題と違って国の関与がなく、安全性について情報発信する主体がほとんどないこと、メディアの理解と援助がほとんどないこと、その背景には尖閣問題などによる中国に対する不信感があると考えられる。
福島産農産物への風評被害
11年、福島第一原子力発電所事故が原因で農作物の放射能汚染が発生した。政府は広域の出荷制限を実施するとともに、農作物の検査を実施した。
最初の検査ではコメをはじめ多くの種類の農水産物で汚染が認められ、検査品目の3.4%が基準値を超えていた。飛散した放射性ヨウ素は半減期が短いため急速に減少し、半減期が長い放射性セシウムも除染などにより徐々に減少した。その結果、農産物の汚染はほぼなくなり、現在は山菜などわずかな基準値超えがあるだけである。
事故から10年以上が経過した現在、激しかった風評被害は収まりつつある。しかし農林水産省の22年度の調査では 、県産品重点6品目である米、牛肉、桃、あんぽ柿、ピーマン、ヒラメの出荷量は震災前のレベルには回復せず、桃や牛肉の価格は全国平均を下回っている。風評による価格の下落については東京電力が補償している。
福島産農産物問題は東京電力と共に国が前面に立って風評対策を実施し、メディアのある程度の協力も得られた事例である。