2024年4月20日(土)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2023年2月8日

 エネルギー価格が落ち着き、輸入金額さえ抑えることが出来れば輸出拠点としてのパワーが残るドイツの貿易黒字は直ぐに復元する。図表③に示すように、日本もドイツも世界輸出に占める割合は徐々にしかし確実に低下中だが、明らかにドイツは日本よりも緩やかである。

 例えばプラザ合意のあった1985年、日本とドイツはそれぞれ9.5%と9.8%で概ね互角だった。しかし、2021年時点で比較すると、それぞれ3.4%と7.4%になっており、日本のシェアはドイツのそれの半分以下だ。

 ドイツが政治・外交的にさまざまな問題を抱えているのは事実だが、②(「永遠の割安通貨」)だけではなく、①(「巨大な自由貿易圏」)や③(「安価で高質な労働力」)などの構造的な有利があったからこそ、こうした対外的な競争力が維持されている背景はある。その上で同国の雇用制度(④)や財政政策の在り方(⑥)にも着目する価値があると筆者は思っている。詳しい議論は同書で掘り下げているため、ご関心のある読者はご一読頂ければと思う。

「地方経済の厚み」は日本との違い

 なお、前掲図表②の⑤は、あまり日本で周知されていないように感じる。ドイツの輸出拠点としての魅力は国土全体に広く分散化された経済の「厚み」に由来している部分があり、これが日本との大きな差異と言える。「国土に広く分散化された成長」は「中小企業の厚み」ひいては「地方経済の規模の大きさ」として確認できる。

 先に述べたような日本の輸出シェア低下は先進国としては半ば宿命づけられたコスト高に加え、断続的に発生する円相場の急騰、地震や台風などの自然災害、硬直的な雇用規制、税金、電気代など日本特有の諸要因も相まって、日本企業が海外生産移管を進めた結果と考えられる。とりわけ2010年代以降、日本企業による海外企業買収が加速している。

 21年末時点で日本の保有する対外純資産残高は31年連続で世界最大だが、今やその半分は直接投資だ。2000年代前半を振り返れば半分は証券投資だったのだから、日本の対外経済部門は構造変化の最中にあると言える。時代と共に日本は「国内で生産して海外に販売」という構図から決別しつつある。

 もっとも、ドイツ企業も海外展開は進めており、その点で日本企業と大差があるわけではない。しかし、ドイツの場合、国外への展開だけではなく、国内全土への広がりも認められる。よく引き合いに出されるのがドイツの誇る「中小企業の厚み」であり、これが「地方経済の厚み」に直結し、大都市一極集中ではない「国土に広く分散化された成長」が実現しているとの評は多い。

 ドイツ中小企業は「国の屋台骨」と例えられることが多い。それら企業群を指す「ミッテルシュタンド(Mittelstand)」とのフレーズは日本でも有名である。ドイツには規模が小さく、知名度は低いものの、特定分野で高い競争力を発揮する中小企業が複数存在する。

 当該論点に関してはドイツの経営学者ハーマン・サイモン氏が著書『Hidden Champions of the 21st Century(邦訳:グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業 )』で用いた「隠れたチャンピオン(Hidden Champions)」のフレーズが知られる。こうした企業は大都市に密集しているわけではなく、全土に広く散らばる。そうした中小企業が海外への高い輸出力を誇り、貿易黒字を支えるという構図である。また、地方経済が堅調であることは人口減少を食い止める力にもなり得る。


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