2024年7月15日(月)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2023年2月8日

 日本でも第二次安倍晋三政権の下、地方創生が看板政策として掲げられ、14年9月の内閣改造を経て担当大臣(地方創生担当大臣)も設置される動きが見られた。一国全体として「人口減少」が進行する一方、東京を中心とする「一極集中」も同時進行し、国土の均衡的な発展が妨げられているとの問題意識は正しい。地方から大都市への人口流出は必然的に地方における安定した雇用機会を奪い、大都市への「一極集中」が不可逆的な潮流として固定化してしまう。

 例えば、「一極集中」が進めば住宅価格の騰勢などに拍車がかかり、住環境は悪化しやすくなる。出生率の動向にも良い影響を与えない。かくして安倍政権下の地方創生は地域経済・産業を修復するローカル・アベノミクスとして始まった。

散化するドイツ、一極集中化する日本

 しかし、少なくとも本書執筆時点の状況を踏まえる限り、ドイツが「強い中小企業」を推進力として国土に広く分散化した成長を遂げているのに対し、日本は一極集中の成長を是正できていない。図表④はドイツと日本について地域別の人口およびGDPを比較したものだ。

 例えば日本の場合、人口およびGDPの40%程度が関東地方に集中している。決して広いとは言えない東京だけで人口の10%、GDPの20%を占めており、文字通り一極集中である。

 片や、ドイツでは最大の人口を占めるノルトラインヴェストファーレン州で人口およびGDPの20%を占めるが、これに近い州としてバイエルン州、多少落ちる州としてバーデンヴュルテンベルク州が続いている。関東地方(約3.2万平方キロメートル)とノルトラインヴェストファーレン州(約3.4万キロメートル)はほぼ同じ広さなので、人口およびGDPの双方で関東地方の密集度が際立つ。

 もちろん、ドイツと日本は国家の形成過程が歴史的に異なる。ドイツは乱立していた自由都市などが連合して形成された連邦国家であり、地方分権の歴史が長い。現在でも16ある州が自治権を保有しており、各州が独自の文化を発展させ、脈々と継承してきた経緯がある。

 片や、日本は、明治維新以降、中央集権国家としての成長が志向されてきた。各地の自治を取り仕切っていた「藩」を廃止し、「府」や「県」に置き換えることで中央集権化を図った廃藩置県などはその象徴である。

 そうした歴史的経緯も踏まえれば、日本が「輸出拠点としての魅力を維持」するために「広く国土に分散化された成長」を目指すとしてもドイツと全く同じアプローチは難しい可能性がある。そもそも人口が減少過程に入る日本にとっては「資源を分散して戦う」よりも「資源を集中して戦う」方が理に適っているという考え方もあるだろう。

 もっとも、日本が学べる部分が全くないわけではない。ドイツが「中小企業の厚み」や「地方経済の規模の大きさ」を得るにあたっては専門性に秀でた人材の育成を得意とする教育システム(デュアルシステム)の効用を指摘する声もあり、この点については雇用制度の問題が再三指摘される日本においても倣う価値があるように思える。「中小企業の厚み」や教育システムに関する議論は、別の機会に譲るが、日本経済がドイツ経済に劣後する理由を全て単一通貨ユーロの存在に押し込めようとする分析態度は適切ではない。単一通貨ユーロのように真似できないものもあれば、教育システムや雇用制度など、ある程度学ぶ価値のある経験もある。

 上で紹介した地域別GDPの比較を1つ取ってみても、東京の一極集中は知っていてもドイツの分散化された成長は知らなかった向きが多いのではないかと思う。競争力のある中小企業が多数存在し、広くあまねく国土に散っていることが依然としてドイツを輸出大国足らしめているというのは重要な事実である。

 人口半分のドイツにGDPが追い付かれそうな現状から何を学び、何を活かしていくのか。建設的な姿勢で今回のニュースを受け止めたいところである。

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