2024年4月26日(金)

プーチンのロシア

2023年2月21日

 ロシアが対ウクライナ侵略の手を止める意志を見せない一方、ウクライナ軍も欧米の支援を背景にロシアに徹底抗戦する姿勢を崩してはいない。昨秋以降、戦線をめぐる状況に大きな変化が起きておらず、双方とも戦闘を継続する意思を変えていないことを考えれば、今後も戦況は一進一退が続く可能性が高い。

付き従うしかないロシア国民

 そのような中、英国防省は2月中旬、ウクライナ侵攻開始以降のロシア軍と民間軍事会社の死傷者数が合計で17万5000~20万人に上ったとする分析結果を公表した。死者数も4万~6万人と推計している。

 英国防省は、負傷者に対する死者数の割合が極めて高いとの見方を示し、その理由として「極めて貧弱な医療しか提供されていない」ことが原因だと指摘した。民間軍事会社であるワグネルをめぐっては、死傷者数が全体の5割にのぼったとの見方も示している。

 ロシア軍は昨年9月に約30万人を追加動員しているが、事実であればその半数以上の規模の人員が死傷したことになる。ロシア軍をめぐっては、新たな動員を行う可能性もくすぶり続けているが、現在のような損失が続けば、新規の動員を避けることは困難だ。

 プーチン大統領は昨年11月、ロシア軍兵士の母親らと面会した際に「わが国では交通事故で年間3万人が死亡している。人はいつか死ぬものだ」と言い放ったほか、今年2月には壊滅状態に陥ったとされる歩兵旅団をめぐり、「英雄のように戦っている」と称賛した。戦闘で死亡することを賛美するかのような発言の数々からは、国民に対し、新たな人的犠牲を受けいれるよう求める思惑がにじむ。

 ロシア国内で目立った反発が起きない背景には、ロシア経済が欧米諸国の想定以上に制裁に持ちこたえているところにある。第三国を経由して各国がロシアへの輸出を禁じた商品を輸入する「並行輸入」と呼ばれる手法が広がったことで、物資の供給も進んでいる実態も指摘される。

 ただ、これはソ連崩壊直後の経済体制への先祖返りであり、賄賂の温床になるとしてロシア政府自身が長年かけて排除しようとした商行為だ。さらに有力外資の撤退や、IT分野などの有能な若年層の国外脱出で、資源依存脱却のカギとされた製造業や新規産業の発展は一層困難になった。資源採掘で技術を供与していた欧米の主要企業もロシア市場から撤退しており、中長期的にはこれらの分野も衰退の危機にさらされる。

 このような状況でも、戦争に批判的な数百万人規模ともみられる人口が国外脱出したあとでは、ロシア国内で戦争に反対する運動を担う勢力はもはや皆無の状態だ。出口のない戦争に引き込まれながら、ロシア国民は指導部にただ従うしかない状況に追い込まれている。

 
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 ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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