2024年11月22日(金)

21世紀の安全保障論

2023年3月3日

国を守る為に必要なことは

 今回の政府の対応について、自衛隊法の改正が筋であるとの批判もある。しかし、それまでの間に同種事案が発生しても対応できるよう法解釈で可能な措置を明らかにするとともに並行して必要な法改正についても検討を進める姿勢が重要である。

 わが国においては、既存の法的枠組みの中で何が出来るかという法解釈の議論が安全保障政策の議論と混同されてきた。今そこにある脅威、起こり得る最悪の事態、事案に如何に対応すべきかを検討した上で必要な法改正や能力を整備すべきである。

 そもそも既存の法の支配に基づく国際秩序を自ら望むように変更しようとする国に対して、国内法執行の観点からの警察権の行使という考え方で対応することは困難となっている。また、現在の対領空侵犯措置には、国家の最も基本的かつ重要な国益である領空の保全や国民の生命を防護するために領空外で行動する権限が十分に与えられていないという本質的な問題が存在する。

 尖閣諸島の施政権を誇示する為に領空侵犯を繰り返す無人機や気球等に対して、領域外であっても武器使用を可能とする明確な法的根拠を付与できていない。国際法の観点から検討をすすめることは国として極めて重要なことである。

 1987年、ソ連のTu-16が航法装置の故障を理由に沖縄本島上空を領空侵犯した事案では、現行の対領空侵犯措置の限界が露呈している。初の警告射撃によっても領空侵犯は阻止できず、強制着陸をさせることも出来ず、日本の誘導に従うこと無く悠然と領空外に飛び去って行った。

 主権を侵害されないためには、撃墜されるかもしれないと思わせる法的根拠や能力を整え、必要があれば武器使用も躊躇しない政治判断を示さなければならない。今回は、政府の迅速かつ柔軟な対応で当面の気球事案への対応は可能となり、排他的主権が認められる領空保全に万全を期するとの毅然とした姿勢を示せたことは大いに評価されるべきである。

 同時に、常に国の安全保障を全うする為に何を為すべきかを考えて、法改正を含めて必要な措置を先行的に検討し、実行できるよう備えておくことが安全保障の要諦であることを今般の事案は示唆している。

 
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