2024年11月22日(金)

21世紀の安全保障論

2023年3月3日

 米中央情報局(CIA)バーンズ長官が、中国の習近平国家主席が「2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」との見方が示されており、戦略的コミュニケーションの一環としても毅然とした姿勢を示すことが重視されたものと考えられる。

日本は技術的、法的観点から打ち落とせるのか

 日本国内においても過去に同種の気球が確認されていた事実が明らかとなり、浜田靖一防衛大臣は2月7日に外国の気球が日本の領空に侵入した場合、自衛隊機による撃墜は法的に可能との認識を示した。また、空自トップの井筒俊司航空幕僚長も一般論と断った上で、高度や大きさで難易度に違いはあるものの、戦闘機から空対空ミサイルなどの手段によって気球の破壊は可能との認識を示している。

 技術的な可能性に疑念を持つ理由としては、次の3点が考えられる。第一に気球の飛行する高度、第二に戦闘機との速度差、第三にレーダーに移り難い気球の材質等である。しかし、筆者の戦闘機操縦者としての経験から判断しても空自が装備する現有戦闘機によって十分対処可能である。

 まず、気球が飛行する高度は約1万8000~2万メートルであり、空気密度も薄く、通常の航空機は飛行しない高度である。戦闘機の実用上昇限度は機種によって異なるものの約1万5000~1万8000メートルであり、気球高度に届いていないので撃墜出来ないと思われるかもしれない。

 しかし、必ずしも撃墜する対象物と同高度に上がる必要はない。アフターバーナー等で十分加速した上で上昇しながら限界高度手前でミサイルを発射すれば、気球との高度差はミサイルの射程で十分カバーできる範疇にある。

 次に速度差について「新幹線から自転車を撃つようなもの」と難しさを表現する専門家もいる。確かに相対速度がほぼ音速(340メートル/秒)近くになるものの、対象を目視さえできていれば固定された線路を走る新幹線と異なり、三次元で経路を変更しつつ射程に余裕のあるミサイルを発射できる戦闘機の場合、熟練の技が必要なわけではない。

 最後に、気球の材質や構造からレーダーに映りにくい特性が難しさの理由として指摘される。しかし、気球は約60メートルもの大きさであり、雲の少ない高層域では深い青空を背景に比較的目視は容易である。

 気球または情報収集器材にミサイルを誘導するだけの熱源が無いことも撃墜は難しいとする理由として指摘される。しかしながら、最新の戦闘機に搭載されているヘルメット・マウンテッド・ディスプレイ(HMD)によって目視照準によるミサイル発射が可能であり、直撃しなくても近接信管によって撃墜は十分に可能である。

 米空軍にも一目置かれる操縦技量を有する航空自衛隊のパイロットにとって、米空軍と同程度の性能を有する戦闘機並びにミサイルを保有する現状において、同種の気球を撃墜することは技術的に十分可能であると考える。但し、今まで一度も実施したことの無い任務となることから、必要な事前検討、訓練等を行った上で備えておかなければならないのは言うまでもない。

 次に法的観点からは、外国の航空機が国際法または航空法等の規定に反してわが国領域上空に侵入した際の措置を定める自衛隊法84条「対領空侵犯措置」が対応の根拠となる。気球も航空機の一種と見なされ、かつ領空における排他的な主権が認められていることから、予め許可を受けずに他国の領空に侵入する外国の航空機は、領空侵犯された国の国内法に基づいて対処されることになる。

 わが国においては自衛隊による武器の使用は、憲法9条に基づく自衛権発動の考え方やその精神を徹底した自衛隊法並びに関連規則によって厳しく制限されてきた。自衛隊法84条に基づく武器使用も警察権行使の一環として正当防衛、緊急避難に該当する場合に限られるという見解が示されてきた。しかし、今回はそれ以外にも航空路の安全確保や国民の生命等の安全確保の観点からも武器使用が認められるよう法解釈を見直す方針が示されたことで、当面の対処が可能となり国民の不安を取り除く意味でも大いに評価されるべきである。


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