2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2023年3月8日

2.事実前提を無視した詭弁と嘘

 さらに、『除去することになっているストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106、テクネチウム99、プルトニウムなども基準値を超えて残留しています』との記述は事実前提を無視したもので、「嘘は言っていないが誤解を誘導する」といえる。

 現時点で多くのタンクに貯蔵されているのは原発敷地内で働く人たちの無用な被曝を防ぐことを最優先とした処理途上水であり、そのまま海洋放出することなど最初から想定していない。

 日本で一人の作業員に許容される被曝限度量は、実効線量で「定められた5年間の平均が20mSvかつ、いかなる1年も50mSvを超えるべきではない」とされている(環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料[平成27年度版])。

 基準値に達した作業員は長期間の離脱が必要になるため、特に廃炉作業初期には作業員の被曝量を少しでも減らすことが急務であった。結果、原発敷地から敷地境界に追加的に放出される線量(自然界に元々あった線量を除いて、原発施設から新たに放出されて増えた分の線量)は2014年3月の9.76mSv/年から2021年9月には約0.86mSv/年まで劇的に低下し、原子力規制委員会が公衆の被曝を抑えるための規制として求める「年間1ミリシーベルト(1mSv/年)未満」が達成されている

 グリーンピースはこうした前提を無視し『東京電力や政府、大手メディアは「処理水」にはトリチウムしか含まれていないように表現していますが、実際には他にも放射性核種が残されていることを認めています。すなわち、いまタンク内にある水は「トリチウム水」などというものではなく、「汚染水」』などと主張する。

 さらに『東電はタンクの水を二次処理してもう一度放射性核種を取り除き、海水で希釈して海に放出するとしています。でも、いまの段階ではこの二次処理がうまくいくかどうかわかっていません。もし二次処理が成功しても、トリチウムと炭素14は取り除けずに残ってしまいます』と続けるが、「いまの段階ではこの二次処理がうまくいくかどうかわかっていません」というのは事実誤認だ。

 実際には処理途上水も追加処理によって無害化されるデータがすでに示され、IAEAによる独立したサンプリング、データの裏付け及び分析活動も行われている。グリーンピースの記事は、これら科学的根拠を覆す材料を何一つ示していない。

 また、トリチウムはこれまで世界中で福島の処理水と比べ文字通り桁違いの量が海洋あるいは大気中に放出され続けてきたが、その影響が科学的根拠と共に示された例も無い。

 その上で、福島では海洋放出時に国の定めた規制基準の40分の1(世界保健機関(WHO)飲料水基準の約7分の1)未満まで希釈するため、「汚染」など起こりようもない。炭素14については既に述べた通りあまりにも微量で、有意なリスクを考慮する必要すら無い。

3.具体的根拠や裏付け無き主張

 グリーンピースは『政府と東電は「汚染水を貯めておくスペースが足りない」ことを理由に海洋放出を正当化していますが、福島第一原発の敷地内にも近隣地域にも、汚染水を長期的に保管するための十分なスペースがあります。このことは、2018年の時点で東京電力が、2020年の報告書で日本政府が認めています。場所がないなら土地を提供すると申し出た地元の方もおられます』とも主張する。

 しかし、記事中ではその根拠や数値が具体的に示されていない。

 グリーンピースは記事冒頭で、『1日に発生する汚染水は94〜150トンにものぼります。これを敷地内のタンクに溜めていて、総量は130万トン(2022年)を超えています。廃炉には30〜40年かかるといわれ、その間にも汚染水は発生します。1日100トンと仮定すると、30年で約100万トン増えます』と主張していた。これを『長期的に保管するための十分なスペース』とは具体的にどの程度の期間と土地面積を想定しているのか。そうした土地を確保するために必要となる時間やコストをどう見積もっているのか。それらに対する具体的裏付けが全く無い。ここにも「量の概念」が決定的に欠如していると言えるだろう。


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