2024年12月9日(月)

Wedge OPINION

2023年4月10日

銀総裁を退任する黒田氏(右)と安倍元首相(左)は一蓮托生で金融緩和政策を進めた(2020年3月、参院予算委員会)MAINICHI NEWSPAPERS/AFLO

 新しい日本銀行総裁が植田和男氏に決まった。アカデミア出身の理論家総裁の登場である。あわせて副総裁は、日銀出身の内田真一氏、財務省出身の氷見野良三氏という布陣である。日銀本体、財務省そしてアカデミアのスクラムで、今後の金融政策に臨むこととなる。

 そこで課題となるのは、金融緩和と物価上昇率2%を目標とするアベノミクスの修正である。諸外国でインフレ対策のため引き締めが続く中では、日銀のみ従来の政策を続けることは難しいだろう。また緩和継続による金融システムの破綻リスクを考えれば、潮時ともいうべき時期ではある。

 とはいえ、出口戦略を粛々と実行するのは、難易度の高いオペレーションとなるだろう。他方で、自民党内では旧安倍派から、アベノミクスの修正に強く反対する声が上がっている。

 2013年1月、政府と日銀は「アコード」を共同で発表した。そこでは「安倍政権の政策の一丁目一番地」のアベノミクスに沿って、日銀と政府が方針を共有したとされるが、実質は政府による日銀への強力なコントロールであった。当時の白川方明総裁はその後すぐに任期中に辞任を表明し、3月には財務省出身の黒田東彦氏が総裁に就任する。このプロセスは、日銀が独立した政策判断を捨て、政府の指示に従う機関と化した状況の象徴であったといえる。審議委員の任命は政府の権限であるため、以後、アベノミクスを支持する委員が次々と任命され、人事から日銀への統制は強まっていった。

 さらに、内閣による人事介入は、日銀限りではなかった。8月には、内閣法制局長官に外務省出身の小松一郎氏が任命された。法制局内に強い反対のあった集団的自衛権の憲法解釈変更を実現するため、これに積極的な小松氏を任命したのである。これは、従来の人事慣行にはなかったことだった。

 元来国内法の法制執務を主として担当する内閣法制局では、外務省出身の長官では十全に職務を務めることはできないとの声も上がる中、集団的自衛権の憲法解釈変更という一点突破のためだけの人事だったといえる。

 こうした破調を行う内閣を前に、日銀も立ちすくんだ。もちろん、政権は選挙での勝利と内閣支持率を梃子に、独自の構想の実現を目指す。独立機関の側は従来の政策や見解と大きく外れたとしても、これを真っ向から否定することは難しい。押したり引いたりといった作用を繰り返すことになる。また政権から見て、総裁解任権の立法や、場合によっては制度の廃止といった手段もまったくないわけではない。真っ向からの対立が続けば、そうした懲罰的な立法が与党から噴き出ることも予想される。

 しかしながら、日銀も内閣法制局も、制度として不可欠有用であって廃止という選択肢はあり得ないし、政権の存続にとっては、そこまでのぎりぎりの対決は国民からの信頼を損なうリスクもある。切羽詰まった対立の手前で、政権と独立機関とがどう折り合うかが問われた。アコード以降の日銀の異次元緩和の政策は、そうした強力な政権に対する独立機関としての一つの振る舞い方であった。


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