2024年11月25日(月)

Wedge OPINION

2023年4月10日

「忖度」の鉄格子から官邸は各省を解き放て

 かつて55年体制のもとでは、社会党などの野党が非武装中立といった非現実的な政策を掲げるのみで統治能力を決定的に欠いていたため、自民党が与党であり続けるのが政治の基本であった。自民党も、与党の立場を安定して維持するために、特に自らの政策イニシアチブを振りかざしてリスクをとらず、各省の政策に大きく依拠した。

 しかしながら、21世紀に入って、冷戦終結とグローバル化、バブル経済の破綻とデフレの継続、人口減といった条件の中では、各省独自のイニシアチブ以上に、創意によってこれらを組み合わせ、多種多様な民間セクターと歩調を合わせる「共創」の意思決定が求められる。もはや各省のイニシアチブでは、新たな政策革新を果たすことは困難なのである。

 先行きの見えない将来に向けては、政治がストラテジー(戦略)を描き、各省および民間セクターがその実行および効果の実現に向けて共に知恵を出し合うことが重要だ。そうした意味で、環太平洋連携協定(TPP)を、米国が途中で抜けたにも関わらず、後発参加の日本が主導してまとめあげたことは、安倍政権のリーダーシップと外務省などの各省が上手く連携した成果であったといえる。

 もちろん、まずは官邸がそうした「共創」の場となることが求められる。ところが、民主党政権はもちろんのこと、第2次安倍政権以降の自公政権も、広く政策革新のシーズをくみ取れてはいない。以後も、安倍政権の発足当初の成功体験があまりに強く、官邸には「共創」の力が弱まりつつある。

 そもそも政治主導はいくつかの焦点にのみ主導性を発揮できるに過ぎず、それ以外は、官邸以外に「共創」の場が必要になる。加えて、安倍政権は、アベノミクスと外交については一定の主導性を発揮できたが、新型コロナウイルス対応にみられたように、内政分野ではほころびが目立った。ここでは、民間セクターのみならず、地方自治体との「共創」がもっとも重要となる。

 官邸は、「忖度」の鉄格子から各省を解き放つことから始めなければならない。まずは官邸とのコミュニケーションの密な有力省が出発点となる。

 次に、「共創」の場は各省と官邸をつなぐ諸々の司令塔だろう。経済財政諮問会議や国家安全保障会議がその例である。今後設立される新型コロナの司令塔もその候補となる。これらには、55年体制のもとでの審議会政治のような裏の根回しではなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代にふさわしい意思決定とその公開のスピード感が不可欠である。現在日本の政治・行政に欠落しているのは、この決定と公開のスピード感を念頭に置いた工程表づくりである。

 新しい日銀の意思決定もまた、こうしたスピード感を必要とする局面である。どこが最初のブレークスルーを呼び込めるのだろうか。時折閉塞感に陥りがちな日本政治の突破口は、意外なところから浮上するかもしれない。

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