2024年5月18日(土)

都市vs地方 

2023年4月4日

空き家問題にはいかなる対策が有効か

 もちろん行政もこうした空き家問題を放置していたわけではなく、例えば、その対策として、空き家再生等推進事業や空き家対策総合支援事業などが推進されてきた。また、23年3月には京都市の空き家税導入に松本剛明総務相が同意した。

 これは、22年3月に必要な条例が成立しており、早ければ26年に導入される。市街化区域にあって、家屋の固定資産評価額が100万円以上(導入6年目からは20万円以上)の空き家に対して家屋の評価額の0.7%を課税するものである。

 こうした空き家への課税がどの程度効果的かについては、フランスについての研究結果が参考になる。フランスでは、空き家税が1998年に創設され、パリ、リヨン、リールなど8都市圏において導入された。

 過去2年空き家状態である住宅に対して地籍台帳記載賃貸価格を基に課税され、その税率は1年目10%、2年目12.5%、3年目以降15%とされた。2013年に制度が拡張された。パリ南大学のセグー教授はこの1998年の空き家税導入の効果を分析し、空き家税の導入により3年間で空き家率が13%低下したことを示した。

 この研究結果は、金銭的な誘因付けが空き家の削減に効果的であることを示している。しかし、どこでもこうした空き家税導入が適切であるとは限らない。

 空き家削減の誘因を高める方法としては、空き家に課税するという方法だけでなく、空き家を取り壊したら補助金を出すという方法もある。どちらも空き家削減の誘因を高めるという意味では同様の効果をもつが、空き家の所有者ならびに自治体にとっての金銭負担は大きく異なる。

 家屋の所有者にとって、空き家を取り壊して更地にすると、家屋の取り壊しにも多額の費用が掛かるうえに、更地にしたことにより固定資産税負担も増えることになる。所有者が金銭的な問題から更地にできずにいる場合に、空き家税により取り壊しの誘因を与えようとするのはあまりに負担が重すぎるかもしれない。

 また、こうした所有者の事情を完全に無視して制度を導入すると、少しでも早く更地にして土地を手放そうとするあまり、不法行為もいとわない悪徳な業者などに付け込まれる可能性もある。もし土地がそういう業者の手にわたってしまうと、適正な土地利用がかえって妨げられてしまう。

 このような懸念が想定される場合には、空き家税の納税猶予や取り壊し費用の補助など、負担軽減策と併せて制度を設計する必要がある。

 もちろん、補助金による対策の方が優れているとも限らない。人口減・地価低迷・空き家問題に苦しむ自治体の多くは規模の小さな市町村である。こうした自治体にとって、補助金による対策は財源の問題から実現不可能であるかもしれず、無理に導入すると財政問題を引き起こしかねない。

 自治体の規模や財政状況に鑑みつつ、空き家の所有者の事情を十分に加味しながら運用できる制度設計を行い、適正な土地利用を実現することが肝要である。

   
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