ウクライナとロシアの間の戦闘において長距離打撃が可能な兵器による砲撃戦が活発化すると、「戦場の女神」と呼ばれる榴弾砲の重要性が増した。西側各国が自国の自走式や牽引式の榴弾砲をウクライナに供与したが、同時に直面した問題は、榴弾砲で大量に消費される北大西洋条約機構(NATO)標準155ミリメートル(mm)砲弾の安定的な供給力確保である。
ウクライナ戦争が始まって1周年の2月24日に尹錫悦政権の関係者は、韓国メディアに対して、米国がウクライナ支援のための砲弾を韓国から輸入する意思を示したとされる。155mm砲弾は韓国の歴史ある防衛産業企業の一つである「風山(プンサン)」で生産されており、すでに昨年末にも米国へ教育目的で輸出されたようだ。同社製の砲弾は各国からの関心が高く、昨年米国で行われたAUSA2022(米国陸軍協会総会および展示会)では、同社が設置したブースに世界各国から問い合わせがあったとされる。
これに関連して、米紙ニューヨークタイムズは、米国情報当局が対ウクライナ軍事支援をめぐって議論を交わす韓国政府高官同士の通話を盗聴したと報じた。同文書の真偽は未だ不明ではあるが、仮に本物だとすると、対ウクライナ軍事支援を巡る韓国政府の苦悩ぶりが明らかになったことになる。
このように、韓国政府は対ウクライナ軍事支援に消極的な姿勢を表面上は堅持する一方で、欧州における韓国防衛産業の躍進は続きそうだ。ウクライナと国境を接するルーマニアは韓国防衛産業数社と協力推進のための了解覚書(MOU)を締結し、すでに輸出へ向けた足場作りが進められている。スロバキアとリトアニアも韓国製装備品導入に強い関心を示している。
今年も昨年に続き、欧州諸国による韓国装備品契約の知らせが多く届きそうだ。事実上韓国は欧州諸国にとって、完成装備品や弾薬などの軍事物資を供給する兵器工場となっているといっても過言ではない。
韓国はどうNATOと協力していくのか
尹政権は正面からの対ウクライナ軍事支援への消極姿勢とは対照的に、政権発足直後からNATOとの協力関係強化に積極的だ。
昨年6月にスペイン・マドリードで開催されたNATO首脳会議に尹大統領が出席。ストルテンベルグNATO事務総長との会談において、2006年に締結されて以来、改定を重ねてきた「韓国・NATOパートナーシップ協力プログラム」を今後より深化させていくことに合意した。
9月26日にNATO理事会は在ベルギー韓国大使館がNATO代表部も兼ねることに合意した(11月22日付で業務開始) 。これに先立つ昨年5月には、わが国よりも早く、エストニアの首都タリンにあるNATOサイバー防衛協力センター(CCDCOE)のアジア初のオブザーバー国になり、昨年11月にはエストニアで開催された世界最大級のNATOサイバー防衛演習に韓国の情報機関である国家情報院のスタッフが参加したとされる。
こうした関係強化の動きの背景には、NATOの関心をインド太平洋地域に寄せたい韓国の思惑がある。北朝鮮と中国という自国を取り巻く脅威がより深刻化する中で、米韓同盟を基本とする国防力強化と日米韓安保協力の復元・強化だけでなく、NATOとの相互運用性強化を図ることで、抑止力をより強化したい思惑が垣間見える。