一方、米国の持つこうした優位性とは裏腹に、興味深いのは「マイナス面」として、「アメリカ・ポリティックスの醜態」にも言及している点だ。
同誌は「とくにトランプ前政権以来、外国からの移民制限、保護貿易主義、州、連邦政府間の対立などにより、これまでの経済を支えてきた広大な統合された国内市場が分断化されつつある。民主、共和両党の対立も深刻化しつつあり、今後数カ月のうちに、政府債務上限をめぐる協議の混乱が続けば、債務不履行(デフォルト)に直面しかねない。そうなれば、米国市場に対する投資家の信頼を動揺させ、さらには、景気低迷による政府の社会コストを一段と高いものにするリスクがある……。しかし、これらの〝自害的諸政策〟(self-harming policies)は、もとをただせば、米国衰退説に依拠しており、この国が誇るべきより強大な経済力、優位性に対する理解を欠いたものである」などと警告している。
十数年前も行われた議論
なお、米国が持つさまざまな潜在力、底力については、筆者は去る2011年12月刊行の拙著(『アメリカはカムバックする』ウェッジ社)で詳述している。
当時、米国は大規模な財政赤字によるデフォルトの危機に直面したほか、経済成長も低迷を続け、わが国でも、アメリカ通とされる識者たちを含め多くの論客の間で「アメリカ時代の終焉」が声高に叫ばれていた。
しかし、こうした見方は皮相的なものであり、著書の中では、①GDPの持続的拡大、②比較的高い出産率に支えられた人口増、③圧倒的に多いノーベル賞受賞者数に象徴されるソフトパワー、④国際特許出願数、⑤食糧、水産、鉱物、エネルギー資源の絶対的優位性――などについて言及、具体的数字を基に、『米国衰退説』」に異を唱えた。
そして、結論として、米国経済は多くの矛盾を抱えつつも、将来にわたり、基本的に不動の地位を維持していくと論じた。
今回、「エコノミスト」誌特集記事は、ほぼ同じ論拠と視点に立ったものといえる。
ただ、興味深いのは、中国との対比において、十数年前の対米悲観論が、今また頭をもたげ始めている点だろう。
しかし、米国の持つ潜在力の実際は、大方の見方をはるかに超えるものだということを改めて記憶にとどめておく必要がある。