2024年5月6日(月)

インドから見た世界のリアル

2023年5月16日

 実はインドも、アフガニスタンから米軍が撤退し、タリバン政権が成立するまでは、インドと中央アジアをつなぐ貿易ルートの開発を計画していた。イランのチャーバハール港を建設し、インドからパキスタンを海路で迂回してイランに物資を運び、そこから陸路でアフガニスタンやトルクメニスタンに物資を運ぶ貿易ルートを開発していたのである。

 そうすれば中央アジアを通る貿易ルートにインドは関与して経済的な利益を上げることができるし、イランー旧アフガニスタン政府と連携してパキスタンを包囲することもできる。そうすると、上海協力機構は、これらの国と交渉する上で有用だった。

 しかし、それは、アフガニスタンにタリバン政権ができると、難しくなった。タリバン政権は、パキスタンと関係が深く、インドと戦ってきた政権だからだ。

 インドとイランの関係も、インドが米国に接近するにつれてより複雑なものになり、うまくいっていない。だから、インドにとっては、このルート建設のために、上海協力機構の枠組みを使って交渉を進めることもなくなってきた。

 このようにみてみると、インドにとって上海協力機構は、協力するだけでなく、中国―パキスタンの動きに関して情報を収集し、監視し、妨害する場でもある。だから価値があるのである。

不思議な枠組みとなりつつある中でのインド

 上海協力機構は一見すると、反米各国が協力を進める枠組みのようにみえる。中国―ロシア―中央アジア間の合意に関しては、一定の成果もあげている。しかし、インドと中国―パキスタンの例にあるように、内部に火種も抱えている。しかも今、他の火種も次々と含み始めている。

 21年には、イランが正式メンバーになる一方で、対話パートナーとしてサウジアラビアが加わった。領土紛争を抱えるアゼルバイジャンとアルメニアも対話パートナーだ。それ以外の国々も次々と加わり、どうやって意見をまとめるのか、不思議な枠組みとなっている。

 状況から推測するに、意見をまとめられるのは中国―ロシア―中央アジアの間だけで、他の国々との関係は、ケース・バイ・ケースで合意できればいい、といったところだろうか。

 だから、中国―ロシア―中央アジア諸国にとっての上海協力機構の価値と、インドにとっての上海協力機構の価値は全く異なるものだと考えられる。インドにとって上海協力機構は、パキスタンの影響力を抑え、イスラム過激派の情報を手に入れ、中国-パキスタン協力を妨害することもできる点で、利用価値があるのだ。

 あくまでインドの国益を追求するという、明確な目的に沿った、巧みで思慮深い外交手段が、反映されたものといえよう。

   
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