2024年12月22日(日)

Wedge OPINION

2023年5月20日

 以上のように日本の長期停滞の背景には「企業貯蓄放置」があり、2000年代の小泉純一郎政権下における「小泉改革」の時期が最初のボタンの掛け違いをもたらした。不良債権処理という言わば「手術」は成功したが、家計所得増大という「リハビリ」は行われなかったからだ。その結果、消費の原資である家計所得が不足し、消費増大の見込みがないため国内投資が進まない、人口が増大しないという低成長と低分配の悪循環という「合成の誤謬」に陥ってしまった。

 コロナ禍後の今こそは、3度目の正直として民間貯蓄の有効活用が必要だ。主な活用先は①設備投資、②配当、③賃上げだ。日本の家計は未だに株式保有に躊躇しており、設備投資が消費より先行すると不良債権化してしまう。そこでまず賃上げで日本の家計を温めていかないと消費不振・人口減少により国全体が疲弊してしまう。

「分配」の主体は企業であれ
「株式報酬」の拡充も視野に

問題はマクロ的な合成の誤謬だが、個別の企業にとっても人口減少とデジタル化の技術動向のもと、優秀な若年労働者を賃上げで惹きつけることはますます必要だ。そこで提案だが、現金による報酬だけでなく、従業員持株会(現在、シェア1%)やストックオプションなど、「株式」を使った労働者への報酬を拡充し、使い勝手を良くすることはできないだろうか。

 格差拡大的として政府は強調しないが、実はこの10年で国内株式時価総額は利益に比例して250兆円から750兆円まで3倍近く上がった。アンケート調査によれば多くの上場企業は、金融機関や株式持ち合いなどで安定株主5割を確保しており、それ以上の興味は持たない。しかし安定株主は文字通り売買しないので、年間GDPに匹敵する500兆円もの株価時価総額上昇の果実は売買高の7割を占める外国人投資家を中心に流出してしまった。

 また、有名人を社外取締役に据えるなど形だけの企業ガバナンス改革に政府は熱心だが、これでは従業員は力が入らないだろう。企業の利潤が自分の持ち株の価値に反映され、生活に役立つからこそ、従業員は定着し、業務そのものや業務の効率化にも熱意が持てるというものだ。実は1998年以前には、メインバンクによるガバナンスがあり、企業利益の上昇をボーナスや預金利子によって還元する広義の利潤分配が存在した。混乱の中でそれらのガバナンス機能が消え、株価の上昇を企業から家計へ還元する手段がなくなっている。家計の株式保有を促進する新NISA拡充を政府が決定しているこの時期に、「株式」という報酬手段を含めることが、ガバナンスのみならず企業内の保身保守一辺倒の判断を覆す方策ともなるのではないか。

 これまで政府は成長と分配の好循環を唱えてきた。誤解しがちだが、そこでの分配とは企業が付加価値を賃金や利子、配当に分けて配分することであって、政府が行う「再」分配ではない。実は日本の生産性も利益も株価も悪くない。企業の分配が日本の家計に向けば、先行きを悲観する必要はない。

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Wedge 2023年5月号より
最後の暗黒大陸・物流 「2024年問題」に光を灯せ
最後の暗黒大陸・物流 「2024年問題」に光を灯せ

トラック運送業界における残業規制強化に向けて1年を切った。「2024年問題」と呼ばれる。 しかし、トラック運送業界からは、必ずしも歓迎の声が聞こえてくるわけではない。 安い運賃を押し付けられたまま仕事量が減れば、その分収益も減るからだ。 われわれの生活を支える物流の「本丸」で、今何が起きているのか─。


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