トランプ陣営の財産
トランプ選対の人事から何を読み取ることができるのだろうか。
トランプ選対は選対本部長および選対副本部長ではなく、複数の上級顧問を置いている(23年5月19日時点)。その中で鍵を握っている上級顧問が、以前紹介した白人女性で政治コンサルタントのスージー・ワイルズ氏(66)である。
ワイルズ氏の父親は、米NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)に加盟するニューヨーク・ジャイアンツのアメリカンフットボール選手であった。ワイルズ氏は、16年と20年の米大統領選挙において、フロリダ州のトランプ勝利に貢献した。18年の同州知事選では、デサンティス候補(当時)の顧問を務めて、同候補を勝利に導いた。
ワイルズ氏はデサンティス知事の強さと弱さの双方を理解しており、選挙戦で「トランプ陣営の財産」になると言われている。
トランプ陣営の他の上級顧問は白人男性であり、彼らの年齢層は40代後半から50代後半である。これに対して、バイデン陣営は、ヒスパニック系女性のジュリー・チャベス・ロドリゲス氏(45)が選対本部長、黒人男性のクリスティン・ファルクス氏(33)が選対副本部長を務める。トランプ陣営とバイデン陣営は、幹部の人種と年齢層において極めて対象的である。
2016年と20年の米大統領選挙と同様、トランプ陣営は白人労働者、退役軍人、キリスト教福音派並びに白人至上主義者を含めた白人中心の「単一文化連合軍」の票獲得を目指すことは明白だ。過度に白人票に依存したこの選挙戦略には限界があるが、仮にバイデン陣営が熱意に欠ける支持者を投票所に動員できなかった場合、トランプ前大統領が選挙人獲得で有利に立つ可能性は否定できない。
「絶対に引き下がるな」
デサンティス知事はどのようにして、トランプ前大統領を支持する保守派や無党派層の票を得ようとしているのか。同知事の選挙戦略と狙いをみてみよう(図表2)。
まず、トランプ前大統領とデサンティス知事の関係は、「一方通行」である。トランプ前大統領はデサンティス知事を「忠誠心がない」と厳しく批判をしているが、デサンティス知事はトランプ前大統領に対する直接的な非難を控えている。というのは、同知事はトランプ支持者の票獲得を狙っているからである。
代わってトランプ前大統領を攻撃するのは、デサンティス知事の政治活動委員会「絶対に引き下がるな:Never Back Down」である。「絶対に引き下がるな」には、リベラル派の政策に対して、1ミリたりとも妥協しないという保守派への強いメッセージが含まれている。
同政治活動委員会は、「すべての選挙は未来についてである」というメッセージを発信して、前回の米大統領選挙で不正があったと主張するトランプ前大統領を「過去にこだわる人」として描いている。その上で、「未来VS.過去」という対立構図を作り、未来を見つめるリーダーであるデサンティス知事と比較しているのだ。共和党予備選挙では、デサンティス陣営は、トランプ支持者に対して「未来」か「過去」の選択を迫るだろう。