しかもエルドアン氏は最強の野党候補の芽を事前に摘むという布石も打っていた。最大野党「共和人民党」のホープでカリスマ性のあるイマムオール・イスタンブール市長(52歳)が昨年末、政府当局者を中傷した容疑で罪に問われた事件だ。同市長は禁固2年7カ月と「政治活動禁止」の判決を受け、大統領選には出馬できなかった。
クルチダルオール氏は自分が当選した場合、同市長を副大統領に就ける、と公約していた。市長が立候補していれば、選挙結果は微妙なものになっただろう。
エルドアン氏はこうしたあらゆる手を尽くして当選に至ったわけだが、膨大な予算が必要となる公約のツケがすぐに回ってくる。エルドアン氏の当選で通貨リラの対ドル相場はさらに下がった。株価も下落すると見られており、同氏の前途は多難だ。
プーチン氏ニンマリ、バイデン氏がっくり
エルドアン氏の勝敗は国際的に大きな関心が集まった。エルドアン氏を頼りにするプーチン大統領は選挙結果に胸をなでおろし、ニンマリしているのではないか。
まずプーチン大統領は〝友人〟と呼ぶエルドアン氏を通じてNATOの動きを察知できやすい。エルドアン氏がフィンランドやスウエーデンのNATO加盟に注文を付け、その結束に亀裂を入れてくれるのも大きい。
さらに欧米や日本の制裁で輸入できない戦略物資などをトルコ経由で入手している可能性がある。米情報機関はトルコが抜け道になっていると疑っている。
仮にロシアが今後、ウクライナとの停戦交渉や和平協議を行う場合、エルドアン氏を通じてロシア側の本音を米欧に伝えることも可能だ。プーチン氏にとってエルドアン氏はかけがえのない存在なのだ。
エルドアン氏はこうしたプーチン氏との深いパイプやウクライナとの良好な関係を使って黒海の港からの穀物輸出合意をまとめ、5月には合意を2カ月延長させるのに一役買った。この外交的働きを選挙戦でアピールしたのは言うまでもない。
対して「米国のバイデン大統領や欧州首脳はエルドアン氏とこれからも付き合っていかなければならないことにウンザリしている」(外交筋)だろう。バイデン氏はエルドアン氏が阻止しているスウエーデンのNATO加盟を実現させるため、渋ってきたエルドアン氏とのホワイトハウスでの会談を検討しなければならなくなるかもしれない。がっくりしているのは間違いあるまい。いずれにせよ、米欧はエルドアン対策の練り直しに直面しているのが現実だ。