過去の名作を〝生かす〟日本の制作者
この問題を考えるうえで、ちょっとさかのぼるが19年の著作権法の改正問題をみていこう。コミックなどの海賊版の違法ダウンロード対策のためにまとめられた。改正案に対して漫画たちが一斉に反対の声を上げたのである。
『コンテンツ産業論』のなかで、東京工業大学教授の出口弘氏は「日本文化のなかでは、見立てや本歌取りのように、さまざまなオリジナルに対する2次作品として新たな命を育むのは、ごく普通の手法である」と、述べている。
日本の漫画家たちは、他の作品のストーリーや色調を活かしながら新たな作品を次々と作っているのである。漫画の歴史は江戸時代の葛飾北斎による絵手本の「北斎漫画」にまでさかのぼる。
ひとつのジャンルのなかだけではない。さまざまなジャンルが相互交流して新たな作品が出来上がっていくのが、日本のコンテンツの構造である。
『君の名は』において、男女の人格が入れ変わる、時を越えていくストーリーは、大林宣彦監督が尾道を舞台して撮った「尾道3部作」のなかの『転校生』と『時をかける少女』に対するオマージュと表現するか、素晴らしい2次作品である。『風立ちぬ』(宮崎駿監督・13年)は、ストーリーの本筋ではないが、堀辰雄の軽井沢を舞台にした一連の小説にインスパイヤ―されたことがうかがえる。ヒロインは、かつての日活のスター・芦川いづみがモデルである。
ちなみに『ONE PIECE』は、黒澤明監督の『七人の侍』に着想を得たという。野盗に村を荒らされる農民に頼まれたひとりの武士が、仲間を募りつつその村に乗り込んで農民たちを戦闘に向かって鍛えていく物語である。
歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』はもともと文楽の演目。落語の「芝居話」は、歌舞伎の演目から噺家が脚色したものも多い。落語の「紺屋高尾」はもともと浪曲の演目。それが映画にもなっている。
著作権法の改定は、超党派のMANGA議員連合会長の古屋圭司衆議院議員が、当時の安倍晋三首相に直接電話で伝えて、再検討することになった。