2024年11月22日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2023年6月25日

“生きたロブスター”は空を飛ぶ

 4月4日。ケケレングのキャンプ場から国道1号線を20キロほど走るとワードという集落があった。水を補給しようと村で一軒しかないカフェに飛び込んだら嫌味な感じのウェイトレスに「只の水はないよ。ペットボトルの水を買え」と断られた。国道沿いに民家が点在しているが住人がいる気配がない。

 集落の外れに操業している清潔そうな工場があった。工場の裏手で作業員のマオリ人女性に頼むと快く「冷えた新鮮な水があるよ」とペットボトルに入れてくれた。

 各地の魚港からトラックで毎朝新鮮なロブスターが工場に運び込まれ、生きたまま箱詰めして出荷しているという。全量中国向けにクライストチャーチ空港から空輸されるとのこと。2018年の統計ではNZの中国向け水産物輸出のうち約60%がロブスターであるという。

 中国のレストランで提供されるロブスターはオーストラリア産が以前は多かった。ところが中国・オーストラリアの外交関係悪化を受けて2020年に中国はオーストラリア産のロブスター、材木、大麦を実質禁輸とした。この間隙を衝いてNZが中国向けロブスターや木材の輸出を増やしたと思われる。

アワビの輸出で栄えた田舎町の今昔物語

 4月7日。シドンという村のやや寂れたキャンプ場のオーナーは人の良いマオリ人夫婦。夕食にインスタント・ラーメンを作ろうとしていたら女将さんが岩牡蠣を差し入れてくれた。半分は生で食べて残りはラーメンに入れた。旦那さんが近くの海岸でロブスターと岩牡蠣を採ってきたとのこと。

 女将によると、この辺りの海岸では以前はアワビが沢山獲れて中国向けに盛んに輸出されていたとのこと。アワビは広東料理の高級食材である。ところが2011年のクライストチャーチ大聖堂が崩壊した大地震により海岸線が隆起してアワビが生息していた磯が干上がったためアワビが死滅。地元の貴重な現金収入が無くなってしまったと嘆いた。

NZは世界一の牛乳・乳製品輸出国、輸出の5割は中国へ

 南島南東部のオタゴ地方は酪農が盛んである。国道1号線の周辺は見渡す限り牧草地が広がる丘陵地帯だ。坂道を登りきるといきなり巨大な銀色に輝く工場が見えてきた。国道1号線と並行している国有鉄道の線路から分岐した引き込み線が工場のなかまで続いている。

 工場の銀色の建屋には“フロンテラ”というロゴが威容を誇っている。フロンテラは世界最大の牛乳・乳製品メーカーであり9000戸の酪農農家による組合組織らしい。国道1号線を南北両方向から疾走してきた何台もの銀色の巨大なタンクローリーがゲートを入って行く。各地の牧場から集めてきた生乳を工場に納入しているのだ。

 NZは人口が小さく牛乳・乳製品生産量の95%を輸出する世界最大の輸出国。2017/18年の統計では牛乳・乳製品総輸出額166億NZドルのうち、43億NZドルが中国向けだ。

南島最北端の港町ピクトンの木材出荷ターミナルの遠景

NZの輸出の過半を占める農林水産物の最大の輸出先が中国だが

 NZの輸出総額のうち牛乳・乳製品、食肉、木材、水産物など、農林水産業が輸出の半分を占める産業構造。NZ統計局によると2022年の輸出総額は816億NZドル、国別では中国26%、オーストラリア14%、米国14%であり近年中国がトップを占めている。

 ちなみに2021年の新華社ウェリントン発の記事によるとNZ特産果物キウイフルーツも25%が中国向けという。

 オーストラリアでは過去10年間で中国への輸出依存を減らす政策を展開してきたがNZでは経済面での中国依存を問題視する声を聞かなかった。むしろ素朴に中国を大口顧客として尊重しているという印象を受けた。


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