米国は、2020年選挙を覆す企ての際よりも大きなリスクの時期に突入しつつある。トランプが共和党の指名を獲得すれば――恐らくそうなりそうである――、来年、米国国民が投票するのは突き詰めれば法の支配に関する国民投票となろう。司法は公明正大にその職務を為さねばならないが、政治システムによる裁定はそれ以上に重要であろう。法の支配よりも力があるのは唯一米国国民の意思である。トランプの命運は究極的にはそれにかかっている。
* * *
トランプが現に当面し今後更に当面せざるを得ないであろう連邦および州のレベルにおける訴訟の問題が彼の大統領への返り咲きの可能性にどういう影響を持ち得るのかという問題とは別に、トランプが仕掛けるこの問題との戦いに米国の司法および政治制度は耐え得るのかという同様に深刻な問題がある。この社説はこれを論じたものである。
この社説にあるように、まずは司法が公正かつ整然と機能し、法の支配が徹底していることが示されねばならない。トランプは魔女狩りであり選挙妨害だと騒々しく一般大衆と陪審員に訴える場外作戦に出るであろうが、ポルノ女優に対する口止め料の件はともかく、フロリダ州の私邸「マール・ア・ラーゴ」に機密文書を持ち込んだ件のような深刻な事案について検察が有罪に持ち込めないとなると、司法の信頼性に疑問符が付くであろう。裁判は一直線には進まず紆余曲折があろうが、検察は辛抱強く対応する他ない。
しかし、より由々しい問題は政治的なものである。トランプの挑戦に米国の体制は耐え得るのか?類似の例が他国にないわけではないが、罪状による刑期の合計400年にもなり得る被疑者が大統領選挙を戦うことを許容する米国の社会は一体どういう社会なのかが問われている。
バイデンへの政治的報復を明言
有罪になってもトランプは大統領になり得る。実際には、トランプの弁護団は裁判の引き延ばしを図る遷延策に出るであろうから、来年の選挙までに判決が確定することはないのではないか。そうなれば、大統領になったトランプが刑務所に送られることはない。仮に有罪になっていても、大統領になったトランプは間違いなく自身に恩赦を与えるであろう。
あまつさえ、6月13日、罪状認否のためマイアミに向かう途次、「バイデンは米国史上最も腐敗した大統領」だとして、再選されればバイデンと彼の「犯罪家族」を標的にして「真の特別検察官」を任命するとSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。彼は3月には集会で繰り返し「報復」に言及したこともある。再選の暁には政治的報復を行うとの意図表明であり、米国の民主的な規範に対する挑戦に他ならない。政治的報復が常態化している国がないわけではないが、米国もそうなってしまうのだろうか。
この社説が結論的に述べているように、米国の体制はかつてない危機に向き合っているように見える。危機を回避するには、法の支配は貫徹されねばならず、トランプの保身のための「最終戦」は、彼の敗北とならねばならない。