2024年11月25日(月)

ニュースから学ぶ「交渉力」

2023年8月14日

 二人が家計を等しく分担する、あるいは女性が家計の中心になる、主に男性が育児を担うなど、二人の関係性や状況によってさまざまな選択肢が生まれてこそ、真のダイバーシティと言えるのではないだろうか。どちらが何を担当するか、相互に状況を確認し合いながら対話し、柔軟に対応する姿勢が重要だと考える。

 これは職場でも同様のことが言える。例えば、自分の部下である女性が妊娠したと仮定する。産休間近になったこともあり、次の出張は彼女以外の人を指名した、というケースについて考えてみよう。

 あなたとしては、出産を控えた彼女に、あまり負担となるような仕事は避けた方が良いだろうという配慮のつもりだったが、本当にそれでよかっただろうか。もしかすると、その女性からすれば、それまで一生懸命取り組んできた業務の延長として当然自分が出張に行くつもりでいたかもしれず、自分は外されたと急に疎外感を感じる可能性があることを考慮しただろうか。

 ここで鍵を握るのが、傾聴力である。良かれと思って一方的に判断するのではなく、まずはその女性自身の思いや考えをしっかりと聞く、という姿勢を忘れてはならない。その上で、身体への配慮を伝え、互いにとっての最善策を話し合って決めるというステップを踏むことで、出産後も安心して復帰できる信頼関係が構築されるだろう。

性別を超えた共感が社会を変える

 もう一つ注意していただきたい大切なポイントとして、近年、女性の活躍を目指して、さまざまなセミナーや企業内研修、交流会などが行われているが、その際にいつも、女性だけを集めていないだろうか。実社会の中では、異なる性別が混在して動く状況の方が圧倒的に多く、根本的に社会を変えていくためには、異性を巻き込んで変革の推進力を生み出す必要がある。

 ご縁あって、筆者は「パブリック・リーダー塾」の講師の一人としてリーダーシップ育成プログラムを担当している。これは、もっと世に女性のリーダーを数多く送り出そう、という理念のもと、2016年に村上世彰氏が創設した村上財団の主催で、すでに何名も政治家を輩出している。筆者は常々塾生の皆さんに、女性だけで話していても理解は得られない、性別を超えて人々を巻き込み、女性が活躍できる社会への強い共感を得る必要がある、と話している。

 そして、共感を得るために欠かせないのが、価値理解とアサーティブネスである。アサーティブネスは相手の考えを受け止めつつ自らの主張をしっかり伝えるもので、アン・ディクソン氏が1983年に出版した『A Woman in Your Own Right』で提唱されている。

 英国ではベストセラーになり、女性の地位向上に大きく寄与した書籍である。その中でアサーティブネスは、性別の問題に限らず、上司や部下、先輩と後輩など、さまざまな人間関係において適用できると説かれているが、その根幹は、女性が社会でいかにコミュニケーションを図り、自らの考えを円滑に伝えていくのか、という点にある。

 本書では、攻撃的ではない言い方で自分の考えを主張することを強調しているが、これは英語圏を前提としている。敬語など、言語的な機微を含む日本語においては、より慎重な配慮をもって言葉を選んで表現することが求められ、そこでも効果を発揮するのが傾聴力である。

 まずは質問し、相手の意見や心情を受け止め、あなたの立場ならそのようにお考えになるのはよくわかります、と価値理解を示す。そのうえで、こういう話もありますがどう思われますか、というようなやわらかい形で自分の意見を丁寧に伝えていくことが大切だ。


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