面倒に感じるかもしれないが、真向(まっこう)から対立しては、相手は自分の話を聞く耳すら持ってくれない。繰り返しになるが、だからこそアサーティブネスが重要なのだ。共感を得るためには、まず自分が相手に価値理解を示さなければならない。
差別なき世界への第一歩
従来マイノリティとされたグループに対して、差別是正措置をとることを「アファーマティブ・アクション」という。日本ではポジティブ・アクションとも言われている。
その一例として、一部の米国の大学では、黒人系や中南米系の受験者を入学試験で優遇する措置がとられ、公民権運動とも関連して認められていた。しかし23年、米国の連邦最高裁は、このようなアファーマティブ・アクションを違憲とする、という大きな転換を見せた(Students for Fair Admissions, Inc. v. President and Fellows of Harvard College, 600 U.S. ___ (2023).)。是非はともかく、社会全体として、ダイバーシティを大きな問題として捉えていることが明らかである。
日本の大学の入学試験においては、主に理工系で女性枠を設け、女性が入りやすい環境を整える取り組みも出てきているが、日本ではまだまだようやく性別に関するアファーマティブ・アクションという考え方が導入された段階と言え、今後の議論の深まりを期待したい。
それでも筆者は、冒頭に挙げた「女性役員比率30%」といった話も含め、数値目標を掲げることで、半ば強制的にその環境をつくり出すことが、大きく社会の意識を変えるうえでは必要だと考えている。なぜなら、たとえばある組織において、女性1人、男性9人だった場合、その女性が発言すると、あたかもそれが「女性代表の意見」であるかのように捉えられてしまうという大きな問題をはらんでいるからだ。女性の中でも多様な意見があるにもかかわらず。
さらに最近では、性的少数者(LGBTQ)への配慮も重視されるようになり、真にすべての人が社会で活躍できる環境構築に向け、ますます複雑な対応が求められている。
これらは、一朝一夕で解決できるような生易しい問題ではないことは明らかだ。しかし、大変な難題であるからこそ、一人ひとりが傾聴力とアサーティブネスを忘れずに対話の実践を心掛けることが小さくても着実な変革への一歩になると信じている。相手を尊重し、耳を傾け、理解に努める姿勢があれば、性別や人種などにとらわれず、その人がもつ能力・資質に基づいて登用される社会の実現が見えてくるだろう。
・堀田美保『アサーティブネス その実践に役立つ心理学』(ナカニシヤ出版、2019年)
・アン・ディクソン『それでも話し始めよう アサーティブネスに学ぶ対等なコミュニケーション』(クレイン、2006年)
・津田恵=遠藤典子「ダイバーシティが生み出すイノベーション ジェンダーギャップから考える」説得交渉学研究13巻(2021)49-56頁