2024年7月14日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年9月5日

 さらに中国政府にとって予想外であったのは、国内向けのプロパガンダを煽り過ぎた副作用で、自国の一部民衆が屈折した正義感や愛国心に駆られ、日本への手あたり次第とも言える嫌がらせの電話や、在中国の外交施設や日本人学校への投擲などを始めたことである。これについて日本のメディアの一部には、背後には中国政府の黙認があるとの見方もある。

 しかし、実のところ中国政府は、近年の強圧的な社会・経済政策のせいで高まっている民衆の不満が、限定的な反日感情として発露されるにとどまらず、燎原(りょうげん)の火の如く燃え広がって制御不能となり、自らに向かってくるリスクをもっとも恐れている。加えて、こうした排日運動が世界から注目されることは、すでに低迷している海外から中国への直接投資を一層冷え込ませるリスクがある。

 国営メディアやSNSなどで、執拗に処理水の「危険性」や日本政府の「非」を喧伝しつつも、民衆の極端な行動については鎮静化を呼びかけるような論説がではじめたのは、内心穏やかではない中国政府の本音を象徴している。

恥ずべき日本国内の一部反応

 このように考えれば、今般の処理水をめぐって立場が危ういのは中国側で、わが国ではない。ところが日本の一部メディアは、中国側の異常な反応によって生じた日本国内への影響を過剰に報道し、日本国民に無用な不安や動揺を与えている。

 一部の野党政治家も、科学的事実を無視するだけなく、あたかも日本政府に問題があるかのような愚論を展開している。加えて政権与党側でも、農林水産相というもっとも直接的に問題対処を迫られている職責者が、処理水を「汚染水」と述べる致命的な言い間違えをし、また中国の実質的な禁輸措置についても「まったく想定していなかった」と失言する愚を犯している。

 こうした日本国内での反応は、中国に自らの愚を悟らせるどころか、日本には「弱み」や「付け入る隙」があると公言しているようなものである。古今の中国における常套手段とは、相手方の内部を分裂させて付け入り、その一方を操ることで相手方全体を弱体化させ、自らの戦いを有利に進めるというものである。この点で、これまでは日中間摩擦に際して「どちらの国民か?」と言いたくなるような反応が多かった財界が、昨今の地政学的緊張から現実に目覚め、中国を利するような発言・姿勢を控えていることは救いである。

 こうしたなかで、いま日本政府に求められているのは、中国との安易な妥協ではない。中国は、日本側が「関係正常化」という言葉に弱いことを理解しているため、事態を少しでも自らに有利な形で幕引きにすべく、甘言と揺さぶりの搦め手を用いながら、「問題解決」に向けて日本政府に妥協を迫るであろう。

 だが、そもそも非科学的で理不尽な論難や対応を続けた非は、中国側にある。日本の惰弱性の象徴とも言える「まあまあなあなあ」の悪癖を見透かされ、あるいは慌てて親中派政治家などを朝貢使節のように訪中させ、安易な「関係正常化」の誘いに乗ることは愚の骨頂である。日本は官民一体で結束し、中国に対して毅然とした対応を貫き続ける必要がある。


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