2024年5月21日(火)

Wedge OPINION

2023年9月8日

 日中友好議連会長の二階氏は対中外交に強い影響力を持ち、国交正常化を実現させた田中元首相の直系、自民党旧田中派出身であり、岸田首相も特使としては最適任と判断したようだ。二階訪中が実現し、海産物禁輸を撤回させることができれば、氏は辣腕ぶり誇示でき、訪中を要請した岸田首相にとっても大きな実績になるだろう。

 しかし、二階氏にしても23年4月の議連会長就任以来、訪中の機会を探ってきたものの、先方との調整がつかないまま現在に至っている。

譲歩の余地なし、中国の無条件撤廃がスジ

 二階氏でも、山口氏でも、または岸田首相自身が乗り込んでも折衝は難航が予想される。それだけに、理を尽くしても中国側を説得できなかった日本側が、解決を焦って不必要な妥協に走ることが懸念される。 

 日本国内では、中国発信の嫌がらせ電話が予想より短期間で峠を越したこと、日本大使館などへの抗議活動が過去に比べて規模が小さかったなどと伝えられている。こうした先方の反応を抑制的と評価し、日本も譲るところは譲るべきだなどという「互譲の精神」が台頭すれば、それこそ国益を損なう愚挙というべきだろう。

 憂慮させられる一例を見よう。

 前日の「抗日戦争勝利記念日」をとりあげた9月4日のNHK朝のニュース。9月18日が満州事変勃発92周年にあたることと相まって混乱が懸念されていたものの、大使館周辺は平穏で目立った抗議活動はなかったと伝えた。

 論評抜きだったが、〝官製デモ〟といわれる抗議活動が抑制されていたのは、中国共産党・政府が問題の拡大を望んでいないことの表れという印象がそこはかとなく伝わってきた。

 処理水問題についての中国の主張がまったく非科学的であるのは明白であり、核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議(7~8月、オーストリア・ウィーン)、国連安全保障理事会などの場でも各国は日本の立場を支持、中国は孤立している。

 互譲精神といえば響きがいいが、こちらには何の非もないのだから、不当な手段を弄した相手が譲ってきたからといって、呼応する必要は全くない。中国側が無条件で禁輸を中止するのがスジだ。

 特使派遣となった場合、先方は処理水放出をカードとして利用。禁輸を取りやめの代償として、これまでに日中関係緊張の大きな要因をなしてきた歴史認識、尖閣諸島領有権問題、新疆ウィグル自治区での人権抑圧をめぐる対中非難など重要な問題で日本側の、柔軟姿勢、譲歩を促してくる可能性があるだろう。 

 特使として派遣された場合、二階氏はこうした要求をはっきりと拒否できるか。首相は二階氏派遣を通じて自ら訪中する可能性を探ろうとしているのかもしれないが、首相自身どれだけ成算があるか。


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