2024年12月22日(日)

Wedge OPINION

2023年9月8日

 福島第1原発の処理水海洋放出をめぐって日中関係は以前にも増して冷え込んでいる。事態打開を急ぎたい岸田文雄首相は、中国からのいやがらせ電話が続いていた8月末、自民党の二階俊博元幹事長に訪中を要請した。成算あってのことなのかなど首相の真意は判然としないが、解決を急ぐあまり性急にことを運べば、不必要な譲歩という中国の術中にはまり将来に禍根を残す。特使派遣は危険性もはらむ両刃の剣というべきだろう。

岸田首相(右)から訪中を要請された二階元自民党幹事長(2023年4月、UPI/アフロ)

山口訪中も実現せず、二階氏も当惑か

 岸田首相と二階元幹事長の会談は8月30日に自民党本部で行われた。首相は「中国と話ができるのは二階さんしかいない。政府としても環境整備に努力している」と述べ、氏の訪中による事態打開へ期待感を伝えた。

 二階氏は「いつでもどうぞ」と答えたという(FNNプライムオンライン)が、事実とすれば意味不明で、今この時期に訪中をどう実現させるのか、という二階氏の戸惑いが伝わってくる。

 禁輸によって打撃を受けている国内の水産事業者への配慮から、解決を急ぎたいという首相の強い思いは理解できる。しかし、早期訪中実現が困難とみられる現状での首相発言だけに空回りのようにも響く。

 首相が中国に特使を派遣したいなら、本来、公明党の山口那津男代表に要請すべきだったろう。ただ、山口氏は8月中の訪問を検討していたというが、先方が難色を示し調整がつかなかった。

 公明党は1972年の日中国交正常化の際、当時の竹入義勝委員長が田中角栄首相訪中の〝露払い〟をつとめ、それ以来、中国とは良好な関係を維持してきた。そういう経緯にもかかわらず、山口訪中が受け入れられなかったことは先方の態度が極度に硬いことをうかがわせる。

 日本と中国のパイプを振り返ってみれば、日中国交正常化前は日中貿易促進議員連盟などを中心に、松村謙三(元厚生相)、古井喜実(元厚相)、藤山愛一郎(元外相)、伊東正義(元官房長官)氏ら中国にモノを言える古い自民党ベテランが少なくなかった。最近では両国関係のすそ野が広がり、多くの議員が日中関係に関わるようになった反面、幅広い人脈を持つ人は限られてきている。


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