当然ですが、この装置が世に出ることはありませんでした。商社の技術に係る幹部が騙され詐欺の片棒を担いだわけです。放送したテレビ局も騙されたのでしょう。ともに物理学の基本を知らなかったのです。
多くのフリーエネルギー装置なるものが「発明」されています。中には大きく取り上げられ多額の資金を集めたものもあります。有名なのは100年以上前に米国で登場したキリーモーターです。
電気がなくても回転するモーターですが、圧縮空気を利用した詐欺だったことが分かっています。また、最近でも太陽電池を利用した装置を永久機関と称していた話がありました。
高校の理科ではエネルギー不変の法則を習います。エネルギーは形を変えて利用することはできますが、総量は変わりません。増やすことはできません。キリーモーターも、空気を圧縮するエネルギーをモーターの回転に利用していただけでした。フリーエネルギー、永久機関は物理学の法則から存在しません。
エネルギーの形態と変換
エネルギーを簡単に言えば、何らかの仕事をする能力と言えます。さまざまな仕事があります。例えば、自動車を走らせる、照明をつける、お風呂を沸かす――。どの仕事にもエネルギーが必要です。
内燃機関自動車を走らせる仕事では、石油を燃やした熱エネルギーを機械エネルギーに変換して車輪を回します。
照明をつけるのには、化石燃料を燃やした熱エネルギー、あるいは太陽光の光エネルギーなどを電気エネルギーに変えて利用しています。化学物質が変化する時に放出される化学エネルギーを電気エネルギーに変える電池も使えます。
位置エネルギーも昔から利用されています。製粉では水の落差を利用し水車を利用しました。今はダムに水を貯め、その落差で水車を回し機械エネルギーに変え、さらに発電機により電気エネルギーに変え利用しています。
原子力発電は、核エネルギーを熱エネルギーに変え、さらに機械エネルギー、電気エネルギーと形を変え利用しています。
なぜエネルギーを変換して利用するのか。その理由は、使いやすいエネルギーに変えるためです。そのままでは利用が難しい石炭も電気に変換すれば利用が容易になります。
一次エネルギーと二次エネルギー
一次エネルギーは、転換、あるいは加工する前の自然界に存在するエネルギーです。化石燃料と呼ばれる石油、石炭、天然ガス。さらに、再エネである、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス(木材などの生物資源)。核燃料ウランも相当します。
そのままでは使いにくい一次エネルギーを転換、加工したものが二次エネルギーになります。石油から作られるガソリン、灯油などに加え、天然ガスから作られる都市ガス。再エネ、化石燃料、核燃料から作られる電気は二次エネルギーです。
私たちの生活にはエネルギーが必要ですが、使えばなくなるエネルギー(枯渇性エネルギー資源)が大半を占めます。再エネが、73年のオイルショック時に注目を浴びた理由は、石油と違って使ってもなくならない無限のエネルギーとされたからです。
しかし、オイルショックから50年経っても、世界のエネルギー供給に占める再エネの比率は、水力、薪の利用をふくめても16%です(図-1)。
発電では、石炭、石油、天然ガスによる発電量が世界の供給の62%を占め、原子力による供給が10%を占めています(図-2)。
依然として世界は枯渇性エネルギー資源に依存しています。なぜでしょうか。使えばなくなる資源に依存して大丈夫なのでしょうか。