2024年4月18日(木)

うつ病蔓延時代への処方箋

2013年9月12日

 このため米国では医療費は損保会社が支払いますので、効率の悪いトリートメントに対して損保会社は介入や、最悪の場合は支払いを拒否することもあります。心理セラピーに対しても効果を示す報告書提出を求めるなど、上限回数に縛りをかけています。通常12回実施後に保険会社がチェックを入れ、続けるかどうかをレビューします。このように米国では、限られた回数での効果が求められるためセラピスト、損保会社ともにエビデンスの高い認知行動療法を志向しているのです。

 投薬治療はもちろん効果があり、海外では認知行動療法とほぼ同等の成績(6~7割程度の効果)とされています。ただし、前述した英NICEは、認知行動療法は投薬治療に比べうつ病の再発が低い事を指摘しています。

 英国、米国ともに認知行動セラピストの育成を積極的に進めており、英国が政府主導であるのに対し、米国では新しいPSYDと呼ばれる学位の新設や新しいタイプの心理大学院の設立などで進めているのが実情です。

うつに陥る考え方を変えること

 ――どのような点で、うつの治療として認知行動療法が優れているといえるのですか。日本での普及は進んでいくのでしょうか。

奈良:これまでの心理療法の方法と認知行動療法の違いのひとつは、心理知識、スキルの獲得とセルフコントロールに重点を置いていることです。スキル移転によってクライエント(患者)は、自力で自分の問題に対処していくことが可能になります。例えば最近の認知行動療法ではどういうメカニズムで問題が発生し維持されているのかを明確にするケースフォーミュレーションを行います。そのうえで10回前後、どのようなセッションを行い、どのような心理的知識、スキルを獲得してもらうのかスケジュールの全体像を共有化します。これにより自分で行動や考え方をチェックし、変えるスキルを身に付けて自信(自己効力感)を獲得してもらうことを目指します。

 これまでの心理セラピーの方法ではクライエントがセッションの目的や方法について共有化が十分されないこともあり、セッションの趣旨を理解できないまま進行することもあったといえます。認知行動療法の場合それらは明確に共有され、同盟を組むというスタンスをとります。また、うつ症状が改善しても、時間の経過とともにうつ状態が再燃することがあります。このとき身に付けたスキルがあれば、自身で状態をよくすることができ、再発を防ぐことにもつながります。


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