日本は英国のように国策で推進しているわけではなく、認知行動療法を受けられる医療機関なども大変少ないのが現状です。したがって、日本ではうつや不安障害などでは投薬治療が中心となっています。もちろん薬の効果は検証されていますので、現状ではベストな第一選択肢となることはいうまでもありません。ただ、今後は英国のように軽度の場合、認知行動療法のセルフケアに対するニーズが社会的に増大することが予想されます。
また、健常者向けの認知行動療法に基づくストレスカウンセリングや学習プログラムもストレス低減の効果が実証されています。このような予防的プログラムはますます重要性を増し、ウェルビーイングの向上、主観的幸福感の向上などにも役立つと考えられます。今後、認知行動療法の考え方を取り入れた様々なプログラムの開発に取り組んでいきたいと考えています。
患者増の背景にある早期発見
――うつを発症する人が増えていることを実感しています。患者数が増えている要因をどのようにみていますか。
奈良:うつに対する啓発活動の積極化があげられます。メンタル不調に気が付く人が増えたこと、職場でも管理者の意識が高まり、調子の悪い部下に対し通院を薦めるなどで患者数は統計的に増えたのではないでしょうか。うつ病は機能の差が幅広く、ベッドに横たわるような重症な人から、何となくおっくうで気が重い状態が続いている人までいます。
数年前までは、会社に行けなくなり、重いうつ状態に陥ってからケアを受けるという人が大半だったのではないでしょうか。それが米国のように軽度な状態でもケアしようと医療機関にアクセスするようになった。長引いてきた経済不況をはじめ、ストレス増加やIT化なども要因にあると思います。
――アドバンテッジ心理学総合研究所は、具体的にどのような役割を持っているのですか。研究開発に認知行動療法の考え方を取り込んでいるのでしょうか。
奈良:大学の研究室と共同でメンタル状態を調べるテストを開発し、信頼性、妥当性などを科学的に検証しています。また、ストレス耐性向上のトレーニングプログラムの開発や、メンタル不調者だけではなく、健常な方々がポジティブな方向性を見いだせるような人材開発プログラム開発にも力を入れています。
これから積極化させていきたいのが、人材開発技法であるコーチングです。先月ハーバード大学医学部に設置されているコーチング協会と提携し、私自身も同協会のフェローになりました。ここでの成果を基に、認知行動療法的あるいはポジティブ心理学的な方法を取り入れたコーチングの開発に取り組みます。
今後、日本社会はダイバーシティが加速し、ジェンダー(社会的文化的に作られる性別、性差)、年齢のみならず多文化が進みます。その中で通用するリーダーシップコンピタンシーが求められてくるはず。その時に企業トップやエグゼクテイブに必要な誠実性、包容力などの行動様式を身に付けてもらえるプログラムを開発していきます。最終的にはそれが職場のストレスやうつなどを減少させることにもつながると考えています。
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