2024年7月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月4日

 それでは、それは具体的にどんな場合なのか。まず、日本が日米同盟を選択した理由は何か。それは、過去数千年の日本外交の唯一最大の課題であった中国との共存・共栄を実現するためには、第二次世界大戦後は、唯一の超大国かつ最強の核兵器国で比較的信頼に足る米国と同盟を結ぶのが一番論理的であったからである。

 もしも、米国が唯一の超大国で無くなり、日米同盟が中国を抑止できないような状況に至れば、日本は、当然に日米同盟に代わる対中抑止の枠組み(中国と共存しつつも言われる通りにならない立ち位置を確保するための枠組み)を考えなければならなくなる。グリーンもこれを理解しているのだろう。

 彼が最終段落の冒頭で「もしも破壊的な地域戦争抑止への懸念が、貿易、地域的団結、戦略的自主性の維持への懸念を上回れば、現在の米国と同盟国間の継ぎ接ぎ的取極めが集団的安全保障の方向に動く可能性はある」と言っているのは、このような事態の生起を想定しているものだと思う。

 次に、その様な事態になるまで、どれくらいの時間があるのだろうか。おそらく2050年以降、すなわち、後30年程度だと考えられる。後10年経てば、中国の国内総生産(GDP)は米国を上回り、国防費においても相当近接し、また、インドのGDPは日本を抜き世界第3位で、人口は既に中国を上回る。

 要は、現在の米国が唯一の超大国である状況から、米中印の三超大国が並立する時代になる。それでも、米国は引き続き三超大国の中で最強ではあるだろう。

 中国が日本のGDPを抜いたのは2010年だが、その約10年後の22年で、中国のGDPは既に日本の3倍だ。中国の成長速度が減速するとしても、米国のGDPを抜いてから20年経つ2050年の段階では、中国のGDPは米国の2倍程度になっていても驚くには当たらない。

日本が考えておくべきこと

 それでは、その時点で日本が構想すべき枠組みはどのようなものであるべきなのか。グリーンが言うように、アジア版NATOは一つの選択肢だ。おそらく、クアッド(日米印豪)がベースになるだろう。

 ただ、現時点でも、そして、中国の経済的優勢が今と比べ物にならないその時点では益々、重要な同志国である東南アジア諸国が入ってくる可能性は低く、この「分断」は日本にとり良くないはずだ。

 それを補う一つの考え方は、排他的・対立的NATO的同盟では無く、包摂的集団安全保障体制、すなわち、中露も取り込んで「相互不可侵」をコミットするような枠組みではないだろうか。この枠組みであれば、本来対中警戒を一層高めているであろうと思われる東南アジア諸国を取り込むことも可能だろう。

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