ウクライナ政府は8月から、徴兵を推進するための新たなキャンペーンを開始。徴兵適齢期の男性らに、徴兵事務所に足を運んでもらうことを促進するためのものだが、キャンペーンが掲げたスローガンは「勇気は、恐怖を乗り越える」だった。
マリャル国防次官(後に解任)は「徴兵事務所を訪れた人のすべてが徴兵されるわけではない。徴兵されたとしても、誰もが前線に行くわけではない」と強調したが、そのような説明をせざるを得ない事実に、ウクライナ軍が徴兵でいかに苦戦しているかが分かる。
マリャル氏はまた、「徴兵をめぐる汚職を排除する」と約束した。ロシア軍との終わりの見えない戦争に巻き込まれるなか、賄賂を支払える財力のある家庭の子弟が徴兵を逃れ、その金で徴兵事務所の要人らが私腹を肥やしていた。そのような事実は、軍に加入する人々の戦意に深刻な影響を与えている。
ウクライナ軍は6月上旬から反転攻勢を開始し、南部を中心にロシアによる占領地の奪還作戦を進めている。ドイツ製のレオパルト2戦車や米国製のブラッドレー歩兵戦闘車などを投入し、さらに米英から供与されたクラスター弾や劣化ウラン弾までを使用することで、一部では、ロシア軍の強固な防衛線を突破したと伝えられるなど、少しずつ戦果を出しつつある。
しかし、そのスピードは決して速いとはいえず、ロシア軍の激しい抵抗を受けるなか、犠牲者が増大している。開戦から1年半を経るなか、米メディアは8月下旬、ウクライナ軍の死傷者数が約20万人、ロシア軍は約30万人に達したとの米軍関係者の証言を報じている。
ウクライナ軍は戦況の膠着を受け、米軍の助言を受けて反転攻勢戦略を見直し、南部メリトポリ方面に戦力を集中する作戦を取り始めたとの報道もある。ただ、ウクライナ軍が戦力を集中させれば、ロシア軍にとっても標的を絞りやすくなるため、ウクライナ軍の損失をさらに増大させかねない危険性も指摘される。
米国は〝汚職調査〟
ウクライナで再び明るみに出始めている汚職問題は、同国の最大の支援国である米国の動きも躊躇させている。米政府はすでに、ウクライナの汚職問題を監視するチームを派遣したと報じられているが、国内で共和党、また国民の間でも強まるウクライナ支援拒否の動きを抑え込む狙いがあるとみられる。ただ、ウクライナ国内で同様の事態が続けば、米国内の世論を支援支持に向けるのは一層厳しさを増すのは確実だ。
ゼレンスキー大統領は9月21日に米ワシントンでバイデン大統領と会談し、ウクライナに対する支援継続を訴えた。バイデン氏は「パートナーや同盟国と共に、米国民は世界があなた方と共に立つよう、できることを全てやる決意だ」と応じたという。
汚職問題を契機に欧米の支援が滞れば、ウクライナ軍はロシアとの戦いでさらに厳しい状況に追い込まれるのは必至だ。ゼレンスキー氏はロシア、そして国内では汚職の撲滅という、二つの戦いに同時に勝利する必要がある。