石油専門家らによると、サウジの石油政策は減産して高値を長期的に維持し続けるというのが基本。これはムハンマド皇太子が推進する「ビジョン2030」という国家改造計画を成功させるためだ。だから今年6月のOPECプラス閣僚会議でも協調減産の枠組みを24年末まで1年間延長することをまとめ、さらに日量100万バレルの自主減産を発表したのだ。
一方のUAEは脱炭素時代の到来を見据え、増産してできる限り稼ぎ、一日も早く経済の多角化を図りたいというのが根本的な政策だ。OPECプラス閣僚会議では、他のメンバーの割り当てが減らされる中、日量20万バレルの増産を獲得し、〝最大の勝者〟とみられている。いずれにせよ、こうした石油政策をめぐる考え方の違いが両者の対立の根っこにあると言えるだろう。
UAEの秘密作戦
とりわけUAEのムハンマド大統領の積極的な対外戦略が目立つ、これが両者対立の要因でもある。同氏は昨年5月、アブダビ首長国皇太子から大統領に就任した。
ウクライナ戦争の最中 、この1年間でモスクワを2度も訪問してプーチン大統領と会談、米国を当惑させた。3年前には敵性国だったイスラエルと国交を樹立し、世界を驚かせた。
しかし大統領の真骨頂は莫大な石油収入を背景にしたアフリカ諸国への非公式な対外活動だ。米紙などによると、その活動はコンゴ民主共和国と巨額な資源開発取引で合意、リベリアの鉱山開発、タンザニアの港湾建設、リビア内戦での反政府勢力支援、エチオピア政府軍へのドローン供給などと拡大している。
最近では特に、スーダン内戦で「戦闘を煽る秘密作戦」を活発化させている。米ニューヨーク・タイムズ(9月29日付)によると、UAEはスーダン内戦で正規軍と戦っている準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)を援助、スーダン隣国のチャドに軍事基地を建設、この基地に軍事物資を空輸し、そこから越境してRSFの拠点まで陸送しているという。
秘密作戦は6月に始まり、7月には基地滑走路に近接した場所に病院まで建設、スーダン内戦で負傷したRSFの戦闘員を収容。重症者はUAE本国にまで搬送治療している。両者が密接になったのは2018年、RSFのダガロ司令官がUAE支援でイエメンに数千人の戦闘員を傭兵として派遣してからだ。
ムハンマド大統領がRSFに肩入れする理由は、大河ナイルを抱えるスーダンの農業発展の可能性を見込み、将来的にUAEの〝食料庫〟にしたい思惑があるためだ。また地政学的に言っても、スーダンがスエズ運河に通じる交易の大動脈、紅海に面する要衝であり、港湾拠点を確保したい狙いがある。
こうした戦略目標を達成するには「UAEに忠実なイエスマンが必要で、このためにダガロ司令官に投資をしている」(ベイルート筋)とみられている。しかし、最近もRSFがUAE供与のミサイルでスーダンの首都・ハルツームの正規軍基地を攻撃したように、軍事支援が戦闘激化の要因になっているのは確か。国連当局者らはUAEが公式には平和を求めながら、裏では戦闘を煽っていると批判している。スーダン内戦では既に5000人が死亡、400万人が難民化している。