警視庁が打ち出した独自の解釈
ドキュメンタリーの中核を紹介していく前に、軍事転用可能の容疑を着せられた「噴霧乾燥機」について経済産業省の省令についてみていきたい。
噴霧乾燥機の中でも「(機械を分解しない)定置した状態で内部の滅菌又は殺菌ができるもの」は、生物化学兵器の製造などに使われてしまうため、輸出できない。つまり生物化学兵器を幾度も製造する過程では、菌をいった無害化して製造している人に害が及ばないようにする必要があるからである。
この省令は国際的なオーストラリア・グループ(AG)が生物化学兵器等の不拡散を目的として合意している基準に則っている。ただ、日本の省令の「殺菌」という翻訳は若干本来の合意との間にあいまいさがある。
AGの基準の殺菌とは「disinfected(消毒)」であり、化学薬品を使って菌を殺滅する意味である。このために「CIP」(自動洗浄装置)と呼ばれる薬品で自動的に菌を殺滅する装置が付属している。
大川原化工機の噴霧乾燥機にはそもそもこのCIPがついていなかった。警視庁公安部は独自の解釈を打ち出す。
製品加工に使っている「熱風」によって経産省の省令にいう「殺菌」が可能だというものである。省令には殺滅の手段の定義がなかった点をついた形だった。しかし、経産省も当初は公安部の解釈は「適用を広げるものである」として、公安部との打ち合わせは平行線をたどった。
17年10月から始まった両者の協議が4カ月後に方向転換する。
民事訴訟において原告の大川原化工機側の弁護士が「(経済産業省の姿勢は)いつ変わったんですかね」と尋ねると、X警部補は「(18年)2月8日です。ガサ(強制捜査)はいいと」。
原告側弁護士が重ねて「経済産業省側から何か(理由や背景について)説明はなかったですか」。
X警部補は「ありました。(警視庁)公安部長が動いたと聞いていると」。
経産省側でX警部補と協議していた課長補佐は法廷で「(公安部長の動きについて)あったかどうかと言うと分からないです」と答えた。
取材班が当時の公安部長に電話インタビューすると「コメントする立場にない」と繰り返すのみだった。