2024年6月25日(火)

田部康喜のTV読本

2023年10月7日

なぜ、捜査は止まらなかったのか

 第五係は、強制捜査にあたって大川原化工機の噴霧乾燥機を使っている中小企業で「熱風」による殺菌の実験と、防衛医科大学校長で微生物学の権威である四ノ宮成祥さんの証言を提出していた。 

 そもそも同社製の噴霧乾燥機を設計したのは、逮捕拘留中に病が見つかって亡くなった相嶋静夫さん。逮捕前の公安部による事情聴取について大川原社長に対するメールの中で、捜査員に「熱風」によって完全に菌を殺滅することは不可能であることを説明した、と報告していた。

 機械の「測定口」と呼ばれる部分は、袋小路のような設計になっていて熱風が行き渡らずに温度が上がりにくく、すべての菌を殺すことはできない。

 取材班は、公安部が実験した大川原化工機製の噴霧乾燥機を使っている中小企業を訪ねた。この会社の代表は「この機械で菌を完全に殺すのは不可能だ」と捜査員にいったと証言する。

 防衛大学校長の四ノ宮さんに捜査員が書いた調書をみせるとまったく真逆の証言になっていることに驚きを隠せない。「熱風を送り込めば細菌が死滅する。輸出規制貨物に該当すると思っています」とあった。

 四ノ宮さんが捜査員に話したのは「殺菌はあいまいである。規制の対象が広がる」というものだったのに。「逮捕起訴ありきでそちらの方向に向かって都合のいい結論にしてしまったということなのかなと思いますけど」と推測する。

 “冤罪”に至らないで済んだ瞬間は幾度もあったようにみえる。

 大川原化工機側も強制捜査までに捜査に協力的だった。中国内の軍事転用の疑いが指摘されると、中国内の製品の所在を把握してリスト化し捜査陣に手渡しもしている。大川原社長をはじめ、役員や従業員らも任意の事情聴取に約300回も応じている。

 なぜ捜査は止まらなかったのか。取材班は広範な警察関係者のインタビューをしている。

 「不正輸出を専門とする第五係は近年目立った成果が上げられていない」

 「第五係の幹部は『このままでは人員を減らされ縮小させられる』『経産省に殺菌概念が無いといわせるな。経産省がそれをいったら事件は終わり』と言っていた」

 「無理筋だと思うところもあったが、組織内の筋を無視して『これをやれ』といわれれば従わざるを得ない」


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