2024年5月17日(金)

都市vs地方 

2023年10月11日

 この感動に加えて、この時代には、五輪のもつ圧倒的な推進力によって都市のインフラを整備し、結果的に人々の生活の利便性が増進するという大きな効果が期待できた。

 64年の東京五輪では、首都高速道路という世界に例のない都心を周回する連続立体交差道路をつくった。同様に環状七号線道路等を建設し、都心と渋谷を結ぶ青山通り等を拡幅した。これらはその後の高度経済成長時代における物流を支えた。

 当時の日本人は五輪に夢を見て、感動した。戦後復興を実感した。五輪は熱狂的に支持された。しかしそれでも、都民は五輪関係の莫大な投資から福祉や教育に重点を転換することを要求して、五輪直後の選挙で当時の社会党や共産党が押す美濃部亮吉知事を当選させた。

1998年長野五輪や2020年東京五輪でも不祥事

 98年に長野で開催された冬季五輪もまた同様に地域の人たちが心から歓迎し成果も大きかった。スキー等の競技に適した気候の長野に、多くの競技施設ができた。長野新幹線や高速道路が完成した。長野市だけでなく佐久市は新幹線によって大いに発展した。

 各種施設建設やインフラ整備のために、外国人労働者が多く現地に動員された。日本では当時すでにその種の労働者が絶対的に不足していた。結果として外国人の不法滞在が問題となり摘発されたりした。

 そればかりか国際オリンピック委員会(IOC)で招致段階における不正疑惑や日本側による過剰接待疑惑問題が浮上した。当時の長野大会組織委員会が会計帳簿等を焼却していることが明らかになり、その後何年も追求された。

 結局、真相は藪の中となったが、五輪後の2000年に現職引退を受けて実施された長野県知事選挙では元副知事に対して作家の田中康夫氏が圧勝した。県民が五輪の経費問題をめぐる経過等から県政の変化を求めたといわれている。その後数年間、県政の混乱が続いた。

 20年(21年開催)東京五輪をめぐる汚職や談合事件は記憶に新しいが、準備過程での国立競技場の建設問題に始まって、エンブレムのデザイン盗用疑惑、女性に対する差別発言など不祥事が相次いだ。コロナ禍のため大会では選手も関係者も外出禁止だったが、肝心のバッハIOC会長が銀座見物に出かけて批判された。

 経費についても、小池百合子東京都知事は、選挙で五輪経費等の問題について政府や当事者を鋭く批判して当選した。日本における五輪をめぐる不祥事や事件は古くて新しい話題である。


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