東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会から1年が経ち、多くの記念イベントが各地で行われた。大会開催前には大会の「レガシー(遺産)」を残すことが重要とされ、五輪・パラ大会を通じたスポーツ文化の振興に主眼が置かれたが、大会開催時から続く新型コロナウイルス感染症によって手探りになっている。
昨年の大会開催にあわせ東京都が大会後のレガシーを見据え公表した「2020のその先へ」を見てみると、大会におけるハード(施設や環境など)・ソフト(イベントや取り組みなど)両面にわたる多面的な取組を推進、とある。この中で大会の感動と記憶を後世に永く伝えていくものとして、有明のベイエリアと武蔵野の森の東京スタジアム(味の素スタジアム)周辺の2大拠点を挙げている。
重点拠点としている2拠点に注目しながら改めて東京大会のレガシーについて考えてみたい。
「面でつながる」有明のベイエリアの課題とは?
有明のベイエリアは今月20日に人気ユニット「Perfume(パフューム)」のコンサート、24日には東京2020パラリンピック1周年記念イベントにより華々しく再開場した有明アリーナを中心に、有明テニスの森や有明アーバンスポーツパークなど、都市的な広がりをもつスポーツ施設の集積(スポーツクラスタ)が形成されている。
バレーボールと車いすバスケットボールの会場だった有明アリーナでは、東京都が施設を保有したまま一定期間の運営権を民間へ売却するコンセッションを利用しており、これまで公共スポーツ施設で実現できなかった柔軟な運用が可能となっている。これまで大手ゼネコンが音頭をとるのが通例だった公共事業において、代表企業の電通がNTTドコモやアミューズとコンソーシアムを組んで施設提案したことも柔軟な運用を期待した現れと言える。
これまでの公共スポーツ施設における官民連携事業は、民間事業者の自由度の低さから事業の先細りを生み、それでもなお指定管理料を公金から拠出しなければならない負の循環におちいるリスクが払拭できなかった。有明アリーナは国内初の民間主導に活路を見出すアリーナであり、都市型公共スポーツ施設の未来を担う施設といえるだろう。
そうした意味で再開場のイベントも、パフュームのコンサートから、車いすバスケットボールの男女日本代表が出場したエキシビションマッチ、初の単独来日公演となった史上最年少でグラミー賞主要部門を独占したビリー・アイリッシュのツアーと、エンターテイメントとスポーツを織り交ぜたものとなった。
有明テニスの森は、貴重な都市の緑化資源を最大限まで残したCASBEE(建築環境総合性能評価システム)の最高位Sランクを取得した施設となっている。当初施設の提案として、最寄り駅のりんかい線国際展示場駅からセンターコートをペデストリアンデッキでつなげる提案が行われたが、環境影響や建設費コストの観点から現在の最低限の改修に留められた。
有明のセンターコートはテニスのワールドツアーにおいて中国・北京の会場との競合になるラウンドで、選手は日本に来るか中国に来るかを選択する。北京五輪を経てホスピタリティを高めた北京を選ぶ選手が多い中、有明の設備をもっと豪華にすべしとの論調もあったものの、最終的には都民利用に最適化した施設に落ち着いた。大会誘致と都民利用、難しい判断である。