2024年パリ五輪はどうなる
来年24年の五輪がパリで行われることは、17年9月のIOC総会で決まった。その年末にパリ市役所を訪れると「パリ市は五輪招致に成功した。五輪とはこういうものだ」といった感じの展示が市役所の前に掲示されていた。
その写真は、1968年メキシコ五輪の陸上200メートル(m)表彰式のものだった。金メダルはトミー・スミス、銅はジョン・カーロスが獲得した。共に米国のサンノゼ州立大学の学生である。
その年は4月に公民権運動指導者のキング牧師が暗殺された年だった。2人は公民権運動を示す意味で表彰台で手を挙げた。銀は豪州のピーター・ノーマンだった。彼は2人の運動に共鳴して2人と同じ、公民権運動を示すバッジを借り、それをつけて表彰台に上がった。
IOCはこれを政治行動として3人ともオリンピックから追放した。米国の2人はその後、名誉回復されたが豪州のピーター・ノーマンは追放されたままだった。
05年、サンノゼ州立大学は構内に3人が表彰台に立つ銅像をつくろうとした。そのときピーター・ノーマンは、自分の台は空けておいて、訪れた人がその台に立って自分の思いを受け止めてほしいと言った。大学はその通りに銅像をつくった。
ピーター・ノーマンは06年、64歳で死去した。葬儀には米国からトミー・スミス、ジョン・カーロスの2人が駆けつけて棺を担いだ。ピーター・ノーマンの名誉が回復されたのは死後6年経ってからである。
パリ市は1978年メキシコ五輪の表彰台の3人の写真を掲げることによって、差別の解消という五輪憲章を市民に伝えようとした。これを2024年パリ五輪開催の意義のひとつとして市民に訴えた。
本年6月、パリ五輪・パラリンピック組織委員会は事業契約を巡る不正の疑いで当局の家宅捜索を受けた。組織委委員会は疑惑の目を向けられたことに反発して「わずかな不正もない」と主張している。物価高で経費も膨張しているとも報道されている。警備の不安もある。
せっかくのパリ五輪だが、理想的に運営されるとは限らない。発展途上の都市は別として、成熟した都市で従来形式の五輪を開催するのは市民の支持が得られない。むしろ弊害が大きい。認識を改めるべきだ。