2024年11月21日(木)

Wedge2023年12月号特集(海事産業は日本の生命線)

2023年12月2日

 山口県下関市にある中手の旭洋造船。本社工場を訪ねると、ドックではコンテナ船、艤装岸壁では珍しい捕鯨母船「関鯨丸」の建造が行われていた。日本政府は2019年6月末に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退、同年7月から商業捕鯨再開の道を拓いた。世界唯一の母船式捕鯨事業者である共同船舶は永年活躍してきた捕鯨母船「日新丸」の老朽化に伴い、新母船の建造を計画、旭洋造船はこの建造を請け負った。

関鯨丸(旭洋造船提供、以下同)
進水式の様子

 本社工場では、1万トンクラスの船を年間6隻ほど建造している。越智勝彦社長は「昨年まではコンテナ船の建造が多かったが、今後は環境対応の視点から液化石油ガス(LPG)輸送船やメタノールを燃料にしたさまざまな船の受注が多くなる。受注残は2年半あるので、余裕をもった設計ができている」と仕事量は十分確保できている。

越智勝彦社長(右)と、横浜国立大学で、海洋造船工学を学んだ新造船営業部の田中輝気さん

 旭洋造船では「球状船首(SSS−BOW)」と呼ばれる船の先頭部分を丸い球状にしたユニークな形の船を設計・開発し、世界特許を取得している。この形状によって風の抵抗を抑えることができるため燃費を3%ほど改善できる。SSS−BOWのコンテナ船が、内航コンテナでトップの井本商運(神戸市)などに納入され、日本各地からのコンテナ荷物を大型コンテナ船に運ぶ役割を果たしている。

 その他、超低温冷凍運搬船なども建造しており「皆さんがよく食べておられるマグロを、インド洋などから清水港に運んでくる冷凍運搬船の大部分をわが社で建造してきた」と、われわれの食卓にも貢献してくれている。

「球状船首(SSS−BOW)」

 一方で、造船業ならではの厳しい経営環境を指摘する。「造船事業は①大きく変動する海運マーケット、②為替相場の動き、③鋼材・機器などの高騰という、自らがコントロールできない3つのリスクに晒されている。船の価格が決まった後に、鋼板など材料費が高騰しても船価の再交渉はできないという商慣習も続いており、リスクが多くある中でビジネスを続けていかなければならない」という。

 さらには、中韓勢との競争もある。例えば、賃金を比べると日本より韓国の方が高い。それなのに韓国が受注量で大きく日本を勝っているのは、補助金や救済合併など造船業への国の支援があることも大きな要因だ。中韓において造船は輸出で外貨を稼ぐ大事な産業なので、国の中での造船業の地位が高く、日本と全く違う。

 「中国は国営、韓国は財閥系の超大型造船所が主であり、中小型造船所であってもできるだけ大きい船の建造を志向している。当社は内航船建造を主とする国内中小型造船所が多い中で、あえて世界中のニッチなマーケットを追求していく。発注が1隻、2隻単位のロットも、設計要素の大きいオーダーメイドの特殊船建造も厭わない変幻自在な対応こそが当社が世界の造船市場の中で生きる道だと考えている」


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